クロノの比較と帰還
「いやいやブロウドさん・・・流石にそれは無理ですよ。」
「ほう、何故だい?」
「僕に勝った彼女が一撃喰らわせるのがやっとなのに、僕だと勝機があるのは無理があります。」
極々当たり前の事をブロウドさんに告げてみるが、彼は首を横に振る
「クロノ君、私の言った事を正しく言うならば、『クロノ君となった彼女だと一撃喰らわせる事が出来るだろう』と言ったんだ。常に相手が君ならば・・・何も可笑しくはないけどね。」
「その根拠はあるんですか?」
「勿論有るとも、ハッキリ言うと君が異端だからだね。」
「異端・・・ですか?」
そりゃ人族から魔族になった存在なんて居ないだろうが、それだけで『神』に勝てるとは思わない
思案する僕の表情を見て、ブロウドさんは何かを察したかの様に首を横に振る
「言っておくが君の生い立ちを指している訳じゃないよ。君は強者なのに、思考が弱者なのさ。」
「思考が弱者・・・」
「そう、君はこの世界では間違いなく5指に入る程の強者だ。にも拘わらず思考が強者のソレではないのだよ。」
「・・・・・・」
「この世界では強者驕るものだ。察せず、考えず、練らず・・・自分の世界で強者として振る舞う。だが君は違う。」
「・・・・・・」
「君は察し、思考し、練って講じる。それこそが『神』へ届きたる唯一の牙なのさ。対して彼女は違う・・・己の快楽のみ追及し、私の事のみに思考を使い、ナニカを手に入れる事が容易な彼女は練るという概念すらないのだよ。」
「・・・だとしても僕は彼女に負けましたよ。」
「そりゃこの世界で5指に入る相手と連戦すればそうなるさ。まぁ少し厳しく言うならば現状は彼女と君との差はその程度でひっくり返るという事だね。」
「・・・・・・」
ブロウドさんの言葉に沈黙してしまう
だが彼はそんな僕を気にする素振りもなく、「さてと」と軽く呟く
「そろそろ君が目覚める時間だろう・・・最期に笑って別れることが出来て嬉しかったよ。」
「・・・え?」
「おや、気づいていなかったのかい?君は瀕死ではあるが死んではいないよ。彼女は瀕死の君が死んだと思っている様でね、まさに今君を取り込もうとしている最中なのさ。」
「え?・・・・・・え?」
・・・僕は死んでいない?
だったら今の状況は何なのだろう等と疑問が生じる
「恐らく瀕死の君が【嫉妬タル心ノ臓】に触れた事により一時的に私と出逢うことが出来たんだろうね。まぁ、私からすれば嬉しい誤算ではあるが、ね。」
「・・・勿論僕も、そうですよ。」
嘘偽りのない言葉が自然に口から零れ落ちる
それではも様々な疑問が生じて来るけれど・・・それも彼に再び逢う事が出来た事に比較すれば些細な問題なんだろう
「じゃあクロノ君、元気でね。」
「はいブロウドさんも・・・と言うのは変ですよね?」
「ハハハ、確かに変ではあるが嫌いじゃないさ。私は私で此処で【真祖】ブロウドの欠片として虚ろっていくさ。」
そう言うと同時にどちらともなく手を差し出し、互いの手を握りしめる
それと同時に僕の身体が透けていった
「っ?!」
「あぁ、気にしなくても良い。君が意識を取り戻そうとしているんだろう。後はまぁ・・・少し位は贔屓しても良いだろう。」
そう言うと同時に僕の手を握っていたブロウドさんの手から魔力が僕に伝導していく
「これは?」
「全快にはほど遠いがね・・・少しばかり君を癒しておくよ。」
「・・・・・・ブロウドさん。」
その言葉を聞いて思わず涙がこぼれ落ちそうになる
この人は本当に・・・
「あぁその代わりじゃないけれど、彼女に伝えておいてほしい事が1つある。」
「・・・はい。」
そして僕はブロウドさんと二言三言言葉を交わし、この世界から再びあちらの世界へ戻っていった
◇
◇
「・・・・・・クロノ君、頑張り給え。」
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