クロノの同情と同調
「姉さん・・・いや【狂乱ノ道化】なの・・・か?」
思わず口をついてしまった失言を即座に訂正する
だがそんな僕を当の本人は然程気にする素振りも無く、ジッと自分の髪を確認している
「・・・・・・」
僕個人としては【狂乱ノ道化】が実の姉だとしても然程気にも留めはしなかった
しなかったが・・・黒髪黒目であり、どことなく僕と似た様な姿をし、明らかに僕よりも年下の風貌である彼女を見ると・・・何となく心に波風がたつかの様に感じる
幾ら満身創痍とは言え、不意を突けば目の前の少女を殺す事は出来る筈だ
出来るはずだが、何故か僕にはどうしても出来なかったのだ
「・・・この姿で相まみえるのはあの時以来・・・久しぶり。」
「・・・・・・その姿は?」
僕は彼女の言葉に応えずに質問を投げかけた
目の前の少女は僕の記憶の奥底にある姉と殆ど相違がない
つまりは実際に血のつながった姉である事は疑い様の無い事実だが、少女の様な容姿だけが理解できなかった
「ん、【嫉妬タル心ノ臓】の効果。表に出ていない間、他の私は一切成長も老いもない。」
「・・・・・・」
その言葉を信じるのならば・・・目の前の【狂乱ノ道化】はどれだけの間、本当の自分を出さなかったのだろうか?
それを想うと同情心の様なモノが湧いてくる
(彼女は、殆ど自分を曝け出したことが無い。それがどれだけ虚しい事なのかが今の僕なら理解できる・・・)
「クロノ・・・クロノ=エンドロール・・・良い名前。」
「そうかい・・・?」
「ん。」
そんな僕の心情を知ってか知らずか、彼女は唐突に口を開いてきた
それがまさか自分の名前の事だとは思ってもみなかったが・・・
「・・・貴方がご飯を食べていた時、私は餓死寸前だった。」
「・・・・・・」
「貴方が褒められていた時、私はアイツに殴られ、蹴られ、瀕死寸前だった。」
「・・・・・・」
「貴方が笑っていた時、私は・・・少しずつ感情を削ぎ落していた。」
「・・・・・・」
「貴方が成長を実感していた・・・時、私は血に塗れた自分の手が汚れている事を実感していた。」
「・・・・・・」
「貴方が誰かに愛されていた時・・・私は誰かに虐げられていた。」
「・・・・・・」
「貴方がクロノ=エンドロールと名付けられた時・・・私は名も無き存在だと扱われてきた。」
「・・・・・・」
彼女の淡々とした口調で紡がれるその言葉は僕の胸を締め付ける
彼女から紡がれた言葉に対し、僕は彼女に一切何か危害を与えた訳じゃない
彼女も僕から何か危害を与えられたと思っている訳では無いだろう
(だがそれでも・・・)
どうしても僕と比較してしまうのだろう・・・僕でも何となくその気持ちは分かる
僕も彼女も創られたとすれば、同じ忌子として生まれ落ちた存在だ
どちらも黒髪黒目であり【不吉ノ象徴】と呼ばれる、唾棄されるべき存在・・・
1人は黒髪黒目であっても幼いながら身体能力も高く、魔法適正が高くサイクスのお気に入りとなった
そしてもう1人は黒髪黒目であると同時に身体能力も魔法適正も低く、実験でしか使用される事が無かった出来損ない
まぁ記録そのものを破棄されたらしいから存在そのものを無かった異にされたらしいが・・・
そんな僕らが決定的に異なるのは、あの時に父さんに助けられたか否か・・・ただその1点のみだ
ただその1点が彼女と僕の生を大きく分けた
「逆恨みに近い事は・・・理解している。」
「・・・・・・」
「貴方と私に姉弟らしい思い出も無い。」
「・・・・・・」
「真暗な私の紙に、1滴の真っ白いインクが零れた。ソレだけは・・・貴方に奪われたくない。」
「・・・ブロウドさん」
「ん。それだけは絶対に渡さない。」
彼女はそう言うと同時に両手に短剣を握り、唐突に戦闘態勢へと移行した
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