クロノと名無しの名出し
「・・・何だ?何が言いたい?」
「・・・・・・ぁ」
呼吸も出来ないこの状態では満足に言葉を発する事は当然できない
これもまた当然だが呼吸が出来ずに意識が朦朧とする中でスキルを発動させる事も出来ない
ならばどうするか
意識が朦朧とする中でもギリギリまで反抗して首を掴んでいる手を離させるか?
否
明らかに今現在、身体能力が劣っている僕が攻撃を加えても憤怒を増加させるだけで解放される見込みは薄い
ならば【暴喰王ノ口】で【狂乱ノ道化】の腕を喰わせるか?
当然に、否
発動させる事が出来る程、意識がしっかりしている訳でも無い
よしんば成功したとしても【暴喰王ノ口】が顕現されるまでに命を刈り取られるのが関の山だ
ならばどうするか?
現在全てにおいて【狂乱ノ道化】に劣る僕が窮地に対し能動的に何かを行うという行為は愚策だ
それよりは逆に相手がコチラに歩みよって貰えればこの窮地を脱することが出来る
それ故に無抵抗のまま、死力を尽くした発声に賭けたのだ
そうすると・・・
「・・・末期に何を囀るつもりだ?」
(ほら・・・ね・・・)
そう言って【狂乱ノ道化】は僅かに首を絞めつける力を緩める
声さえ出せばアチラの方から勝手に歩み寄って来る
そういうモノだ・・・
生物は自分が圧倒的強者であればある程、弱者が何を囀るのか気になるものだ
それは知的好奇心や労わる気持ち等では一切無い
弱者が何と言って言い訳をするのか?
弱者が何と言って嘯くのか?
弱者が何と言ってヘリ下っていくのか?
弱者が何と言って怨嗟を振りまくのか?
何を言おうとも負け犬の遠吠え、やせ我慢、弱者の戯言・・・
何と言ってそれらを振りまくのかが興味あるものなのだ
僕は息を吸い、眼前で余裕の表情を浮かべる【狂乱ノ道化】を睨みつける
そんな僕の視線を受け、怒りながらもどの様な言葉を放つのか興味を持っているかの様だ
「どうした、末期に何を囀るのか聞いてやろうではないか?まぁ・・・その言葉を最後に貴様は死に、我はまた虚無感に苛まれるのだろうがな。」
「・・・お前、が・・・何故ブロウドさんに愛されなかったのか・・・知りたくはないか?」
「っっ!!!」
息を整えながら僕は【狂乱ノ道化】にそう告げる
そしてその言葉を聞いた瞬間のヤツの表情を見て僕は確信した
(・・・賭けに勝った)
この一言だけを【狂乱ノ道化】に告げる事さえ出来れば僕の勝ちという予想は当たった
知りたくない筈がないのだ
罠だと理解していたとしても踏み込まざるを得ない一言なのだ
渇望し渇望し、渇望した末にブロウドさん自身をも殺したコイツがその理由を知りたくない筈がないのだから
「・・・言ってみろ・・・だが変な事をしてみろ、その瞬間貴様の命は刈り取られると思うが良い。」
「先ず前提条件が間違えている。・・・ブロウドさんはお前に対し何も思っていなかった訳じゃない。」
「・・・何を血迷ったことを。」
「さっきお前は俺への感情を読み取っていただろう?それと同様にお前自身に対しブロウドさんがどう思っていたかを読み取れば分かるさ。」
「・・・・・・それは無理だ。我には・・・名が無い。」
「・・・・・・え?」
これは・・・また僕にとっても予想外だった
名が無いとは・・・
「我は生まれ落ちてから名というモノが存在しない。ヴァリア、ブロウド、ソテルアス、ボーム、シュリン、エグドラ、ソーチャ・・・幾十、幾百という名を持つ我だが・・・ハハッ、我自身には名というモノは存在しない。」
「・・・サイクスはお前を何と呼んでいたんだ?」
「我など基本無関心よ。アイツから生み出されたがただそれだけ・・・クロノ、クロノ=エンドロール・・・我は貴様が心の底から羨ましい。」
そう言うと同時に僕を掴んでいる腕に力が籠められる
「我は貴様と違い、誰からも愛されていないのだからなぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
そう叫びながら僕の首を掴んだ手を一気に締め上げた
いつも有難うございます。
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