クロノの思案と私案
◇
「グーガ、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
次の日の朝早くにグーガに会ったので私室へ招き、昨夜のルーシャとのやり取りを相談した
始めはキョトンとして聞いていた彼が、徐々に顔を真っ赤ににし、最後には盛大に笑いだす
「ハハハハハハハハ!!!クロノ様は罪作りな方ですな!!!」
「え?」
僕はよく理解できずに返答する
「これは獣人だけかもしれませんがね、獣人は戦いから帰還した日には最愛の者を抱くという習慣があるんですよ。」
「えええええ!!!」
これには盛大に驚いてしまう
曰く、戦いで火照った血や精神を愛する人を抱く事で沈めるという習わしとの事だ
男は火照りと欲望を愛する人にぶつけ、女は愛する人の無事と感謝を願う一種の儀式らしい
「だからこそ、どんな獣人であれ戦いから帰還した日の夜は飲みにもいきませんし誘いもしませんよ。」
そう言いながらニヤニヤとした表情で僕を見てくる
「不味いな…これは早く謝った方が良いよね。」
「ですな~。獣人の女は愛する男に対して情熱的で一途です。今回の事でルーシャ様のお気持ちは自覚されたでしょう?後はクロノ様がどうされるかですよ?」
そう言いながらもまだニヤニヤしている表情が少し腹立つな…
「前【魔王】の娘に対して何かあったとすると国にとって要らぬ反感を招いたり、反対派が出てきたりしないのか?」
「そのご心配は不要かと。獣人は良くも悪くも単純です。強ければ従い、弱ければ従わせます。暗殺等の相手を不意打ちにする様なやり方でなければ、我らは従いますよ。」
その言葉を聞いて憂いは無くなったが、あとは自分の心の内が分からない…
「そうか…グーガ、ルーシャをこの部屋に呼んで貰えないか?」
暫し思案した後に自分の中で結論を出した
彼に頼むと喜びながら私室から飛び出したのを見て、今度模擬戦で稽古してやろうと思ってしまう
…
……
トントン
少し控えめなノックが扉から聞こえる
「入って良いよ。」
そう告げるとゆっくりと扉が開き、ルーシャが室内に入ってきた
「………」
ルーシャの顔が真っ赤で俯いている
僕自身も少々気恥しい気持ちがあるが、呼び出した当人までが口を開かなければ何も始まらない
僕は立ち上がり、彼女の前まで歩いていった
「ルーシャ…昨夜は本当にごめん!!知らなかったとは言え、君を傷つけてしまった!!」
そう言ってしっかりと頭を下げる
「ク、クロノ様…」
「言い訳にしかならないけど、獣人たちの習わしや習慣を知らなかったんだ…」
そう告げるとルーシャは慌てだしたみたいだ
「ク、クロノ様!頭を上げてください!!【魔王】様ともあろう御方が安易に頭を下げるべきではありません!!」
「いや、今は【魔王】としてでは無く、僕個人として君に非礼を詫びたいんだ。」
「わ、分かりました!!許しますから頭を上げてください!!」
そう言われて頭を上げると、顔が真っ赤で瞳が潤んでいる彼女と目が合う
「本当にクロノ様は…」
そうモジョモジョと独り言を呟いた後にこちらを見つめてくる
「私も申し訳ございませんでした。クロノ様が魔族に変生されたばかりなのを知っていた筈、ましてや獣人でもないのに、こちらの常識を押し付けてしまいました。」
そう言いながら彼女も頭を下げてくる
「いや、今回の件は僕が悪い。知らなくても君の言動を聞いていれば理解できていた筈だ…」
「いえ、そもそも今回は私の感情が暴走してしまった事が起因しております。クロノ様は何も悪くありません。」
互いが自分が悪いと言い合っている事に気づき、互いに苦笑してしまう
「ははっ、じゃあ今回はお互い様という事で良いかな?」
「ふふっ、そうですね…今回は2人とも悪いという事にしておきましょう。」
そんな2人で笑い合う空間が心地よかった
「ルーシャ…僕の気持ちなんだけど…」
「はい…」
そう言いながら彼女の顔が強張る
「正直、僕は君に対して好意を抱いていると思う…でも、確信を持てないんだ…」
「はい…」
彼女は返事してくれたけど、辛い感情を抱えている事は容易に想像できた
「出逢ってから数日しか経っていないからかもしれない…だから…」
「待ちます。」
ハッとなって彼女の顔を見つめると微笑んでくれている
「クロノ様が少なからず好意を抱いてくれている事が嬉しいです。仰る様に私たちは出逢ったばかりです。私は確信を持っていますが、それを貴方に求めるのは酷なのも理解しています。だから…貴方の中で確信して貰える迄待ちますよ。」
そう言いながら微笑んでくれる彼女は…本当に綺麗だった
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