ブロウドと渇望と錯綜
「我が君お別れだ・・・そしてようこそ、我の中へ・・・」
「・・・・・・」
「ブロウドさんっっ!!今すぐっ今すぐ逃げて下さいっっ!!!」
最早呼吸も覚束ない私を宙吊りにして彼女は静かに呟く
・・・?私を持つ手が微かに震えている
(・・・泣いているのかい?)
泣いていないとしても彼女の心にナニか去来するものがあったのだろう
私に対して一言発したまま、何も言わず何もしない
「【狂乱】っっ!!この勝負は僕たちの敗けだっ!!ブロウドさんを放せっっ!!!」
「・・・・・・もう遅い」
(クロノ君なりに精一杯我慢したんだろうけど・・・まだまだだねぇ・・・)
そう思うと微かに口角が上がる
この感情が何なのか私自身も理解は出来ていないが・・・まぁ、悪い気分ではない
「【狂乱】っっ!!!話が違うぞっっ?!!!」
「・・・此処まで来たのだ、止める訳にはいかん。それに・・・我が君がそれを望んではおらん。」
「っっ?!!!」
その言葉を聞き、ハッとした表情でクロノ君は私を見る
・・・残念ながら今回は彼女の言う通りだ
クロノ君の方へ視線を向けてその様な意味を込めて見つめる
「・・・あ・・・あぁ・・・あぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!」
どうやら彼には私の意志が上手く通じたらしい
クロノ君にとっては辛い事実だったのだろう・・・彼は蹲りながら涙を流している
「・・・さらば、です我が君・・・そしてこれからも共に・・・」
そう言ってゆっくりと私の心ノ臓を貫くべく片手を弓退く
それを見て彼とは此処で今生の別れとなる事を理解した私は声を張り上げた
「・・・クロノ君っ!!!」
「っっっ?!!!」
「君と出逢えて本当に良かったっ!!そして1つだけ伝えるっ!!【狂乱ノ道化】は君の実の姉だっっ!!!」
ーーーーーズシャーーーーー
そう叫んだ瞬間、生々しい音が身体全体に聞こえた気がした・・・
「我が君こそ我・・・我こそ我が君・・・」
そんな声が何処かから聞こえた瞬間・・・私の意識は真っ白な空間に包まれる
(退屈な時間が多かったけれど・・・まぁ、悪くはない生だったよ・・・)
そんな事を考えながら私は眠りについた・・・
◇
◇
「・・・・・・ブ・・・・・・ん?」
目の前の光景に現実感が湧かない
【狂乱ノ道化】はいとも容易くブロウドさんの身体を手で突いて貫通させる
そしてそれと同時にブロウドさんの口から鮮血がスローモーションで舞い散っていく
【狂乱ノ道化】がブロウドさんから手を放し、ズシャッっと乾いた音が響きブロウドさんは静かに横たわっていた
「・・・ブロウド・・・さん?ブロウドさんっ?!!!ブロウドさんブロウドさんブロウドさんっ?!!!」
無意識的に彼の元に駆け寄り、彼の身体を掬い抱く
っそして何度も名を呼んだにも拘わらず・・・ブロウドさんはピクリとも動かない
「冗談・・・ですよね?・・・起きて・・・起きてくださいよ?ねぇ・・・ねぇブロウドさんっ!!!」
「それは最早我が君ではない・・・我が君を模したただの亡骸だ。」
必死に揺り起こそうとする僕に対し、無慈悲な言葉を淡々と告げてくる
その声に押される様に視線を上げ、キッと睨みつけるが・・・当の本人は何も感じてはいないかの様な表情を浮かべていた
「・・・・・・不思議だ。」
「・・・・・・」
「我が君を敬愛し、崇拝し、我の生の全てを捧げた・・・そして今、そんな我が君と溶け合えたというのに・・・心が歓喜で染まらない。」
「っっ!!!」
そして【狂乱ノ道化】そう言いながら、姿を変異させていく
その姿は・・・
「ブロウド・・・さん・・・?」
「あれだけ渇望したのに・・・あれだけ求めた私と1つになったのに・・・私は・・・満たされていない。」
「ブロウド・・・さん・・・」
「【魔神】よ・・・教えてくれないか?私はこれから・・・どうすれば良い?」
ブロウドさんを殺した憎悪するべき相手がブロウドさんの姿に変異し純粋に質問を投げかけてきた・・・
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