ヴァリアの油断と判断
「やれやれ・・・これからは剣術だけではなく、体術の方も真剣に学ばねばならないな・・・」
我が君がヨロヨロと立ち上がりながらその様な事を仰るが言葉ほどの余裕を感じられる事は無かった
私はと言えば我が君が予想以上に弱体化している事実に驚くと同時に、あれ程敬愛していた御方を殴りつけたという事実に内心高揚していた
通常であれば予想以上の弱体化にガッカリし、果たして我が君をモノにするメリットはあるのだろうか?等と考えるものだろう
けれど・・・私にとって我が君と溶け合う事は決定事項であり、我が君自身の強さなどは判断材料にもならない
「我が君がそこにある・・・それだけで溶け合う事は確定事項・・・」
「やれやれ・・・一人で何を言っているのかは知らないが、もう少し周囲に気を配った方が良いと思うよ。」
自分の中での我が君の立ち位置を再確認していた所、唐突な言葉が投げかけられる
ハッとして辺りに気を配ろうとしたその瞬間、氷柱が私に襲い掛かってきた
「くっ!!!」
「突発的な攻撃だったのによく回避できたねぇ。だがその隙を一撃だけの攻撃に掛ける程、私は短絡的ではないよ。」
辛うじて回避した私に対し告げてくる言葉の通り、複数の氷柱は容赦無く襲い掛かってきた
氷柱の大きさや威力からして初級魔法だろうし、被弾しても大したダメージにはならない
だが・・・
「【拳剛】などの格闘職はすばしっこい反面、防御面は脆い。幾ら初級魔法とは言え無傷でいる事は不可能だろう?察しているだろうが、この攻撃は君に致命傷を与える為の攻撃ではない。僅かでも傷をつける事が目的だよ。」
我が君からのそんなお言葉の意味は十二分に理解している
【魔王】にも劣るステータスしか持っていない我が君は倒すという事を目的とせず、私に傷をつけるという事が目的となっている
(それにしても初級魔法って・・・)
確かに傷をつけるだけならば中級魔法等よりは威力が小さく見落とされがちな初級魔法の方が見合っているという理屈は理解できる
けれど我が君は【真祖】であり神とも呼ばれる様な存在
そんな存在が小手先の初級魔法で必死に立ち向かっていくその姿は・・・
(あぁ・・・良いっっ!!!良いわっっ!!!私の事を見て、考えて頂いているからこその対策ですねっ!!やはり我が君・・・我が君が私の全てですっ!!!)
我が君の攻撃を回避しながらも気分が高ぶるっ!!!
あれだけ私と視線すら合わせて下さらなかった我が君の脳内が私の事で一杯だと想像するだけで達してしまいそうになる
「何を考えているかは理解しかねるが、これでチェックメイトだ。」
そんな私の甘い夢想は、皮肉にも我が君の声で現実に戻される
けれどチェックメイト・・・?と頭に疑問符が現れる
確かに複数の氷柱が私に対して襲い掛かって来てはいるものの、決して回避できない数やスピードではない
「失礼ながら我が君、この攻撃であればチェックメイトと仰るには些か早計と・・・」
不敬だと感じながらも我が君にそう告げる
だが私の言葉を聞くと首を横に振りながら上空に向かって指をさす
「私は君にこう言っただろう?『もう少し周囲に気を配った方が良い』と・・・ほら、上を見てごらんよ。」
そう言われて思わず八っとする
先程に我が君から啓示を確かに頂戴した
にも拘らず周囲に気を配れきれなかった事実に虚を突かれてしまい、思わず視線を上空に向ける
「・・・・・・?っっ?!!」
「あぁ、ごめんよ。上空に氷柱を発動させたつもりがどうやら地中に発動させてしまったらしい。いや全く・・・弱くなるのは嫌だねぇ。」
ほんの数瞬だ・・・
ほんの数瞬だけ意識を上空に向けたその瞬間を狙われしまい・・・
我が君が仕向けて来られた氷柱を左腕に掠らせてしまい、切り傷が出来てしまった・・・
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