クロノ?の痛苦と苦痛
「やぁ・・・来たね。」
未だ表情を見せない【狂乱ノ道化】は私がそう声を掛けるとピタリと止まる
そして暫しの沈黙の後、徐に口を開く
「敬愛する我が君・・・次戦の相手は私をご所望だと思い馳せ参じました。」
「まぁね、本来なら次戦は彼女を投入するつもりだったんだろう?悪かったね。」
「いえ、私如きの賢しい小細工よりも我が君のご希望が何よりも重要ですから。」
いつもの様に定型文を復唱するかの様な同じ応答を行う
だがそれにしては彼女が纏っている雰囲気がいつもとは違っている
「・・・公正を期して君の事はクロノ君と呼ぶべきかな?」
「御心のままに。私にとって名前に意味等は御座いません。」
「そうか・・・じゃあクロノ君、私がサイクスを手に掛けた事を先ずは詫びるとしようか。」
「いいえ不要です。私もアレも我が君の為ならば命など差し出しても惜しくないと思っておりましたから。」
やはりという何処か納得したかの様な感想が脳裏に過ぎる
彼女は私の言葉、若しくはサイクスの死によって壊れてしまった若しくは・・・タガを外したのだろう
今までとは違う明確な言葉を私はあえて指摘する
「そうか・・・思っていたんだね。」
「・・・えぇ、思っていたのです。今の私は我が君に対する敬愛以上に欲する望みが御座います。」
「・・・凡そ想像がつくが、ね。」
強がりや虚勢などでは決してなく、私は彼女の望みが理解できた
弱きモノが己よりも強気モノと対峙した時、降参するか足掻くか盲信するかの何れかに該当する
だが、弱きモノが強気モノより強くなった際に真っ先に浮かぶ欲求は形式化されている
降参した者は隷属させ、足掻いて生き延びた物は殺し、盲信した者は・・・
「ご明察です。今の私は・・・我が君が欲しい。その身体もその能力もその命でさえもっ!!!全てが私と溶けて1つになりたいっ!!敬愛する御方と身も心も一心同体となる・・・それはそれは素晴らしい事ではないですかっ!!!」
「あぁ、完全に予想通りだよ・・・」
ソレに成りたがる・・・
神聖視していたソレが裏返り、ソレに成り替わりたくなるものだ
まぁ、彼女の様に全てが1つになりたいというモノはその中でも少数ではあるが、ね
「君はサイクスを屠った私に思う所は無いのかい?」
「勿論御座いますとも。あのサイクスを我が君に屠って頂き・・・感謝の念が絶えませんから。」
「ほぅ・・・」
この回答は少々意外な回答だった
彼女たちは彼女が創られた時から切っても切れない様な関係性を保っていたと認識していた
流石に互いの心内を読むことはできないがどうやら彼女はサイクスを嫌っていたらしい
「あの屑と共に過ごした十数年は私にとっては地獄そのものでしたから。我が君、考えてもみてください・・・あの男が創っただけで終わらせる訳が無いでしょう?」
「・・・だね。」
壊れる前のサイクスならいざ知らず、壊れた後の彼が創っただけで満足し、何もしない訳が無いのだ・・・
彼女の言葉を聞いて妙に納得してしまう
「私が奴に与えられた事は痛苦と絶望・・・後は破壊という玩具だけでした。だからこそ我が君に屠られた奴を見ると・・・楽しくて嬉しくて・・・嗤いがとまらないですよぉぉ。」
そう言って私に見せる彼女の表情が笑顔という様な綺麗な言葉では表すことが出来ず、かと言って嗤いという言葉ですらまだ物足りない・・・何とも言えない表情を張り付かせていた
「不敬ながら我が君・・・そろそろ私と1つになって頂けませんでしょうか?わたしはもう・・・我慢できないのです。」
「・・・辛抱たまらんという顔だね。」
彼女の表情に思わず身震いする
最早、私には生き延びる術等は存在しないであろうことは理解している
それでも己の蒔いた罪の種を少しでも刈り取る事しか許されない事実にホンの僅かだけ笑みが零れた
いつも有難うございます。
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