クロノの勝負と承服
バルデインに誘導された城の中庭には闘技場があった
闘技場のスペースがあるだけで装飾品も何もなかったが戦うにはうってつけの場所だった
(何で城の中に闘技場があるんだよ…)
「魔族は相手との強弱を重要視致しますので、大体の城や街には闘技場が御座います。」
ルーシャが横からこそっと教えてくれるが、何で僕の疑問が分かったんだろう?と思ってしまう
「【魔王】クロノ=エンドロール殿、こちらの準備は出来ておりますぞ!!」
バルデインは闘技場舞台からこちらを見下ろしながら声を投げかけてくる
その声に従って刃引きした剣を持って舞台に上がるとバルデインを含めた7人が臨戦態勢を取る
(成程、確かに皆強そうだ…)
彼ら全員に驕りが見えない
こちらを全員が殺気を纏って睨みつけてくる
並を超えた獣人たち7人が一斉に向かって来るのだ、苦戦しない訳が無い
それに今回の戦いでは決めている事が1つある
「我は、其等に、魔法を行使、しない。」
「「!!!!」」
全員が舐められていると考えたのか憤怒の表情で睨んでくる
でもこれは決めていた事だ
彼らに味方になって貰うつもりなのに、万が一でも殺してしまうと味方が減る
彼らは優秀なのだから、そのまま味方になって貰った方が良い
「…負けた時の良い訳には使わせませんよ。」
「否…我の戯れ故、気を病まずとも良い。」
『僕が決めた事ですので』という言葉が『我の戯れ故』に変換されたことに少しショックを受けるな…
「では…【魔王】の実力を拝見しますぞ!!!」
そう言いながら7人が洗練された連携で襲い掛かってきた
…
……
………
(何故だ?)
僕の感情は疑問符で一杯だった
舞台下ではルーシャが喜んでいる
グーガがガッツポーズをしている
村民の獣人たちは大はしゃぎだ
家臣たちは口を大きく開けて茫然としている
舞台上では騎士団の精鋭7人が倒れている
この光景を魔法を使わない僕が十数秒で作り上げてしまったのだ
(ブロウドさん…並の魔族に勝てる位って仰ってたじゃないですかーーーーー!!!!)
僕は心の奥底で叫び続けた…
◇
彼らの連携は素晴らしかった
だけど遅すぎたのだ…
僕は連携の隙間隙間に剣を携えて個々を制圧しただけだ
「【魔王】クロノ=エンドロール様…我々は御身の剣に、御身の盾であり続ける事をここに誓います。」
若干現実逃避をしている僕を尻目に、そう言ってバルデインを含め全員が跪いてくる
「是。其等の、忠誠を受け入れよう。」
「「「はっ!!」」」
返事をしたのは騎士団だけではなかった
周りで見ていた兵士、家臣たち、村民の人、ルーシャやグーガまでが跪いて返事をしてくる
こうして、どうやら国の中枢を司る獣人たちには何とか受け入れてもらう事が出来たのだった
◇
「クロノ様、お呼びでしょうか?」
城内にある部屋に案内された僕はルーシャを呼んで貰った
「さ、早速お呼び頂けるとは思っておりませんでした…」
そう呟きながら体をクネクネさせている
「うん、ルーシャも疲れている所ごめんね。」
室内という事で、僕も仮面を外してルーシャに話しかける
「いえ、クロノ様に呼んで頂けるのは本当に嬉しいですよ。」
そう言いながら上目遣いにこちらを見上げてくる
正直、かなり可愛い……
この表情が天然なのか計算なのかは分からないが、僕の心臓には悪い
「ルーシャを呼んだのは知りたい事があったからなんだ…」
そう言うとルーシャの顔はより真っ赤になる
「私もです。私も…クロノ様の事を知りたいです…」
ん?
「ルーシャ…?」
「クロノ様も私の事を知りたいと思って頂けてたなんて…あぁ、幸せで溶けちゃいそうです。」
んん?
「いや、ル「でも!でもでもでも!凱旋したその日の夜に呼び出して頂ける位に情熱的だとは思っておりませんでした!!」
んんん?
これ絶対に間違っているヤツだ!!
僕は不味いと思い彼女の両肩を掴む
「ルーシャ!!」
「は、はいぃぃ!!」
「僕は、魔族の事を知りたいんだ!!」
…それから暫しの沈黙が空間に落ちる
「ク…」
暫くすると彼女の口から言葉が発せられる
「ク?」
「クロノ様のバカァァァァーーーーー!!!」
そう言いながら彼女は部屋から飛び出していった
「…え?」
追い掛ける事も出来ずに、私室には僕だけが残った…
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