サイクスの否定と規定
「旦那様・・・申し訳ございません。」
「いや、ファーニャが無事に戻ってきてくれた事が一番嬉しいよ。」
「ですが・・・」
私の謝罪に対し旦那様はそう慰めてくれる
その言葉で泣きたくなるくらいに嬉しい気持ちと、お役に立てる事が出来なかった歯痒い気持ちが混同する
そしてそれと同時に申し訳ない気持ちが私に覆いかぶさってくる
【狂悦ノ道化】サイクス・・・
彼は【魔皇帝】であるダンキと【魔王】である私をあしらうが如く圧倒してきた
しかも私たちレベルでも彼の全容は未だ曝け出すことが出来ていない
ある意味で最も不気味な存在とも言える相手だ
【狂炎ノ道化】アカノ=エンドロール・・・
旦那様の姉君にして【剣神】の称号を持つ人族最強戦力とも言える存在だ
【魔王】であるダンキとロキフェル、マリトナを一度に相手し歯牙にも欠けず勝利している事から、人族にも拘わらず圧倒的な実力を持っている事は想像に難くない
そして【狂乱ノ道化】・・・
本名不明、性別不明、能力不明・・・
全てが謎に包まれた旦那様の偽物だ
彼が何をしたいのかも理解出来なければどの様に戦うのかも理解できない
ただ・・・【狂笑道化団】を率いているという事実その1点のみで充分警戒に値する存在だ
残る3人の誰を考えても決して楽観視できる相手ではない
その全てを旦那様にお任せするという事実にどうしても申し訳なく感じてしまう
「大丈夫、僕は勝つよ。」
「旦那様・・・」
「それにね・・・ほらブロウドさんの策が今から発動するみたいだよ。」
「えっ?」
ブロウド様は何か策を仕掛けていたのだろうか?
旦那様に促され視線をブロウド様へ向けると・・・あの男と何かを話している様だった
◇
◇
「・・・我が君がそう仰るのでしたら私としては文句は御座いません。」
「そうかい、君の理解が深くて私としても助かるよ。ところで・・・次戦も君が出ると言う事で良いのかな?」
「えぇ、衣服は駄目にしましたが私自身はまだ無傷ですから・・・このまま【魔神】に勝利し我が君に理想とする世界と進化した存在をご覧頂きます。」
「そうかい・・・だけど1つだけ訂正しておこうかな。君の次戦の相手は【魔神】ではなく・・・私だよ。」
「っっ?!!!!」
我が君の思いもよらない言葉に一瞬ではあるが絶句してしまう
敬愛し、信仰している我が君と私が戦う・・・?
「ハハッ、流石我が君、ご冗談もお上手ですね。」
「ハハッ、君にしては返しが下手糞じゃないか?どこぞの三下悪役の様な台詞だよ。」
「・・・ですが我が君、この余興に貴方様が道化として参加する事を私共は把握しておりません。」
「そうかい、でもそれは解釈の違いだね。私は君がクロノス領を訪れた時に言った筈だよ・・・『クロノ君たちの方へつく』とね・・・」
「・・・それは心情的な立ち位置の事では?」
「君はそう思ったのかもしれないが私はそうではないという事さ。」
「・・・・・・」
そう言われてしまえば私は何も言い返すことが出来ない
いや、そもそも我が君のお言葉を否定する事が有り得ないのだが・・・
だが、だ・・・
「我が君、私は貴方様に刃を向けたくはありません。」
「刃を向けたくない、か・・・ハハッ、残念だけれども君は私に刃を向ける事も出来ずに敗北するだろうね。」
「・・・・・・」
安っぽい挑発だ
それは十二分に理解している
我が君に心酔する私の心は変わらないが、事実この御方は力を失い、弱くなっておられる
全盛の状態であればまだしも今の我が君では私に勝てる道理はない筈だ
「君の事だ、色々と小難しい理屈を思考しているのだろう?・・・じゃあ君に命令を出そうか、『私を殺せ』。」
「畏まりました我が君・・・御心のままに。」
拒否反応が無い訳ではない
けれど・・・我が君の命令に私は拒否権はない
それに・・・ホンの僅かだが我が君を蹂躙したいという気持ちも無い訳ではないのだ
いつも有難うございます。
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