サイクスの全と善
「君は非人道的行為というモノを否定するのかね?」
「勿論ですっ!!貴方のいう事が事実ならば人族のみならず妖精霊族も貴方の被害に合っている筈っ!!国を治める【魔王】としても看過出来るものではありませんっ!!」
私は叫ぶ様にそう答え、魔法を繰り出す
直撃させて終わらせる事が出来れば簡単だったけれど・・・気が付けばこの男のペースに乗っていた
「だが君の言う非人道的行為がこの世を進化させる大切な糧である事を理解しているかね?」
「進化・・・進化ですって?!!」
進化進化進化・・・ブロウド様から発せられた願い
それは本来・・・【神】目線としてのささやかな願いだった筈だ
けれどそれは、悪意ある存在の手によって歪んた形で託されてしまっている
お母さまと同格の存在であり、お母さまの盟友である彼の願いを言い訳の様な形で使用されたくない
「貴方の独り善がりの為にその言葉を使用しないでっ!!!」
「いやいや・・・事実だよ。では聞くがね、人族に回復魔法は効くのに魔族には効果が無い・・・それを不思議に思った事は無いかね?」
「・・・・・・」
「不思議じゃないか?どちらも同じ生命体であり、生命力でいえば例外なく魔族の方が人族よりも優れている・・・にも拘わらず魔族に効果がある回復魔法が存在しないという事実は違和感がないかい?」
「・・・・・・それと貴方が非人道的行為を行う話に何のつながりが?」
「分からないかい?人族は君たちとは違うという事さ。君たちは戦った、勝った、負けたで全てを終わらせてしまう。魔法も発動できるが発動できるという事実で終わらせるきらいがある。だが彼らは違う。」
「・・・・・・」
「彼らは戦い勝った勝因は何だったのか?負けた敗因は何だったのかを模索する。それと同様に魔法を発動できることに対し、何故出来るのか?どの様に発動できるのかを模索し続けた。・・・それこそ君の言う非人道的行為を行ってでも、ね。」
「なんです・・・って・・・?」
「知恵の実は眺めるだけではなく味わわなければ意味が無いという事さ、お嬢さん。その点で人族は優秀だよ。彼らは死体を解剖し、臓器を解析し、魔力を分断していった。それこそ君に語る事すら気が引ける程の行為もね・・・そして彼らは全ての真奥の欠片に触れた。分かるかい?知ろうとする行為とは、善も悪も倫理も非道も常識も非常識も美麗も醜悪も全てを金繰り捨てたその先に・・・進化は存在するんだよ。」
彼が何を言っているのか理解できない
恐らく彼の言葉を私は1%も理解出来ていないのだろう・・・
けれど
「狂っている・・・」
この一言だけは忌憚のない、心の奥底から湧いて出てくる感想だった
だが意外にも私の感想を聞いた彼は嬉しそうに微笑みながら頷く
「勿論理解しているよ・・・だからこそ私は【狂悦】なのだ。狂う事にこそ悦びを感じる君たち風に言うならばどうしようもない存在こそが私なのだよ。・・・さて、質問のこれで打ち切ろうとしようか。」
そう言った瞬間、私は充分に距離が空いている筈なのに無意識に彼から更に距離を取る
「ここからは・・・」
より濃密な死の臭いが彼から一気に放出される
「【不吉ノ象徴】による黒髪黒目の本当の力というものを披露するとしよう・・・」
そう宣言し、先ほどと変わらぬ様な素振りで私の方へ近づいてくる
「来るなぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
特大の魔法弾を彼に目掛けて解き放ち、それと同時に複数の棘を顕現し発動させる
「相変わらず純然な魔力だけでの攻撃か・・・」
「なっ?!!」
そう言うと魔法弾を消失させる・・・訳ではなかった
何故か私が放った魔法弾が真っ黒になったかと思うと、棘の全てを吸い込んでいく
そして先ほどと変わらぬ表情を浮かべてまたこちらへ近づいてきた・・・
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