ファーニャの糸と意図
「ファー・・・ニャ?」
彼女が僕を睨みつけるのは初めての出来事だ
だからこそより動揺している自分が居る
「旦那様、私は何も物見遊山でこの場に居る訳ではありません。【魔神連合】の代表としてこの場に立っております。」
「分かっている・・・分かっているんだ。でも「でも私では勝てないと仰るのですか?」」
僕の言葉に言葉を被せてくる
本来であれば不敬だと力業で黙らせる事だって出来る
でも・・・僕個人としてはそれはあまり使いたくない手段でもある
「旦那様・・・先程も申し上げましたが私も物見遊山でこの場に立っている訳ではありません。さらに申し上げますと私たちは勝つ負けるという理由でこの場には立っておりません。」
「私たち・・・?」
「はい私たち、です。ルーシャさんもダンキさんもマリトナさんも・・・更に言えばお父様も【勇者】の御二方も、です。」
「・・・・・・」
「私たちがこの場に立った理由、それは少しでも旦那様をお手伝い出来ればと言う意味が大多数を占めております。」
「・・・・・・」
「勝てない、勝てないかもしれないという理由で・・・私たちの居場所を奪わないでください。」
「・・・・・・」
彼女の言葉はダイレクトに僕の胸に突き刺さる
多分、僕は勘違いしていたのだろう
「・・・分かったよ。でも、勝っても負けても絶対に・・・生きて戻ってきて・・・くれ。」
「えぇ勿論。旦那様のいる場所が私の居場所ですからね。」
ファーニャはそう言って粛々と舞台へ上がっていく
その後ろ姿には確固たる【魔王】としての意志を感じ取れた
(いつの間にか・・・僕は驕っていたのかな・・・)
以前にルーシャにも言われた悪癖が出ていたのかもしれない
僕は・・・強い・・・
それ故に他者を守るのが当然で、自分が助けてもらうという考えが抜け落ちてしまう
それは結局の所、他者を信用していないという事と同義でもあるのだ・・・
僕はふと後ろへ視線を向ける・・・
そこにはルーシャが魘されながら眠っており、カラミトルとロザンワが介抱しているのが目に映る
(・・・・・・)
自分の心から唐突に湧き出る感情を自制心で抑え込み、ファーニャの方へ視線を戻す
(ファーニャ・・・頑張れ・・・)
そう心の中で呟きながらこの戦いの行く末を見守ることにした・・・
◇
◇
「お待たせしてしまい申し訳ございません。」
「いえいえぇ~、今生の別れとなれば多少は致し方無いでしょうからねぇ。」
遅くなった非礼を詫びるとそう言って挑発してくる
(嫌な男・・・)
笑顔で応えながらも内心で毒づきながら目の前の相手を卑下する
けれど彼に主導権を渡すわけにはいかない
私は先程のダンキとの戦いを思い浮かべながら対策を練る
【狂悦ノ道化】・・・彼の身体能力はハッキリ言って大したことが無い
それこそ魔族の戦闘職であれば瞬殺出来そうなくらいの実力しかないと予想している
(けれど・・・持っている能力が未知数すぎる)
彼が能力を発動させればそこにあったモノが失くなってしまう
それはドワーフが耐久力に力を注ぎこんだ大剣も、【魔皇帝】であるダンキの四肢も、だ
そこには生き物が否かは関係なく発動させる事を意味している
(でも穴もある・・・)
彼が能力を発動させる時には例外なく手を対象に翳していた
という事は手を翳されなければ攻撃を消失させられる事はない
(それに・・・)
私の魔法は普通の魔法とは違う
自分の体内にある魔力を使用するのではなく
この世界に漂う魔力を変換させている・・・
この世界の何処にでもある魔力を果たして消失させる事なんて出来るのだろうか・・・?
「あれあれぇ~・・・今更怖気づいちゃいましたぁ?」
「・・・まさか。貴方の身体を粉塵に帰す手段を思考しておりました。」
思考の糸を切る目の前の男に対し、私は挑発の意味も込めてそう宣った
いつも有難うございます。
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