ロキフェルの完全な感性
「・・・縁を切るという事は、【狂笑道化団】を抜けるという事だよね?」
「逆にそれ以外に意味合いはあるかな?」
「・・・・・・理由を聞いても?」
正直僕は彼が抜けると発言する事を全く想定していなかった訳じゃない
だがそれでも可能性は低いと思っていた
【魔王】が相手故に礼儀として自らスカウトに出向いた
【魔人】の足枷になっていると自責していた【魔王】を言葉巧みに誘惑した
面白い世界、楽しい世界なる様を見せつけ続けた
にも拘わらず抜けるという結論に至られる低い可能性が現実になるとは・・・
「君は私に対して契約を履行できていない。」
「履行出来ていない?」
その言葉に反応してしまう
正直僕は他の誰よりも目の前の【魔王】に気を遣っていた
にも拘わらず履行できていないと告げられるのは心外だ
「そう、君は僕に『世界が楽しくなっていく過程を見せる』と言った。」
「・・・うん言ったね。」
「私はあの日から一度たりとも楽しいという感情を抱いていない。」
【狂楽】はそんな事を宣うがそんな訳がない
人族魔族が僕らの狙い通りに動くのは見るのも滑稽で楽しい
人族魔族が僕らの狙いから外れて動くのもワクワクして楽しい
人族魔族が僕らの手で絶命していく様も楽しい
恨みつらみも阿鼻叫喚も助命の懇願も絶望しきった表情も心が壊れる様も痛苦の余りのたうち回る様子も・・・どれもこれもが楽しかった筈だ
「じゃあ尋ねるけれど・・・」
恐らく僕は納得できないという様な表情を浮かべていたのだろう
【狂楽】は言葉を重ねてくる
「私が1度でも笑った所を見た事があるかい?」
・・・・・・無い
「私が率先して何かを行いたいといったことは?」
・・・・・・無い
「分かっただろう?私は此処に来て1度も楽しいという感情を抱かなかった。それこそさっきのさっきまで楽しいという感情を忘れていたくらい、ね。だからこそ抜ける。・・・幸い先ほどに1勝上げたから【狂乱】と【狂炎】の賭けをそのまま私に移行すれば賭けは私の勝ちだから、ね。」
「・・・・・・分かったよ。但し、次戦は力の限り戦ってもらうよ。」
業腹ではあるが致し方ないとも言える
結局のところ、【狂楽】と僕らは目線や感性が違ったのだろう
目線や感性が違うのであれば楽しめないのも仕方ない
(残念だけど、用済みとなったならさっさとご退場してもらおっかな・・・)
僕の言葉に深く頷く【狂楽】を見ながら自分の心が冷めていくのを感じていた
◇
◇
「おい【狂楽】」
私は目の前で次戦に備えて舞台に上がろうとする彼女を引き留める
私の言葉が聞こえた彼女はほぼ無表情な顔で私を見つめてきた
「・・・なに?」
「・・・お前が先ほど私に言った言葉、『クロノがクロノだと思わない方が良い』とはどういう事だ?」
あの時は激高し、思わず叫んでしまった
だが、彼女が何の意図もなくそんな事を嘯くとは思えない
先程の戦いで対戦相手にはなった言葉が真実であれば、彼女は【魔神】を裏切っていないにも拘わらず【狂笑道化団】に在籍している
そして未だ在籍し、次戦に臨むという事は【魔神】の願いを叶えていないという事だ
そうすると・・・嫌な仮説が頭に巡る
もしその仮説が正しいのであれば私は・・・クロノに刃を・・・
そんな私の意図に気づいたのか、彼女はフッと笑みを漏らす
「そっか、もうそこまでは解呪されているんだね・・・」
「・・・解呪?一体何のことだ?」
【狂楽】の考えていることが良く分からない
いや、無意識的に分からない振りをしているかもしれない・・・
そんな嫌な妄想に包まれる
「そうだな・・・可能であればだけど・・・次の戦いで答え合わせをしてあげるよ。可能であれば、だけどね。」
そう言い残して【狂楽】は私を残し、再び舞台に上がっていった・・・
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