マリトナの最高な最期
「そうでしょうね・・・」
主の優しさが心に染み込んでくる
私は主に最後の攻撃を繰り出し、そして敗れるだろう・・・
敗れると同時に【支配者ノ猛毒】への抵抗力が無くなり、一気に死地に追いやられる
(まぁ・・・億が一勝利した所で魔力が枯渇し【支配者ノ猛毒】にやられるでしょうが・・・)
詰まる所、勝っても負けても自分自身が死んでしまうという事実は覆らない
超極小確率で主に勝利した上で魔力が完全に枯渇しておらず生き長らえるという奇跡の様な可能性も無い訳ではないが・・・
(その時はまぁ、醜態を晒したという名目で自死する事にでもするか・・・)
どの道、選択肢、運命をどの様に辿ろうと結果だけは変える気はない
主もそれを知っているからこそ私の準備が終えるまで待っていらっしゃったのだ
短剣を取り出し、深く息を吸い、吐くと同時に魔力を開放させる
私自身、どこからこんな魔力が放出されているのか理解できないレベルでの圧倒的な魔力量と濃度・・・
それを見た主は少し驚いた表情を浮かべるが、油断無く鎌を携えて私の攻撃に備えていた
「・・・最後に言い残すことは?」
「特に・・・いえ、では折角ですので1つだけ。」
主からの好意を無にする事なんてできない
それに、私の様なモノが最後の言葉を自分で選んで告げる事が出来るなんてこれ以上に無い贅沢だ
「主、今までお世話になりました。それと・・・良ければ【魔神】様の元へお戻りください。」
「・・・・・・」
私はそう言ったと同時に主の言葉を待つ事無く、一気に文字通り私の魔力を短剣に纏わせて攻撃を繰り出した
ーーーーーキイィィィィィーーーーーーーーンーーーーーーーー
(綺麗な・・・音・・・)
刃物の綺麗な残響が耳に届く
今までに様々な声や音を聞いてきた
それでも・・・今この時に聞いた残響ほど心にこみ上げてくる様な音は無かった
(さよなら、主・・・)
そう口にしようと想ったけど・・・止めておいた・・・
私の最後の言葉にしては、何処か寂しい気がする
それに、主に掛けた呪いの言葉が効果半減してしまうかもしれない
主はお優しい方だ
お優しいが故に私の末期の言葉を無視できない
『【魔神】様の元へお戻りください。』
私の言葉に従い、主はきっと【魔人】様の元へお戻りになられる
それこそが主にとっての幸せだと、私は信じている・・・
悠久とも刹那とも捉えることができる思考する時間にも限界がきた・・・
私の上半身と下半身、左腕と左肩は綺麗に切断されている
何故かと問われても理由はわからないが・・・痛みはない・・・
そうしている内に朧げに意識を手放そうとしてきた私の眼前に、主の足が映る
どうやら止めとして私の首でも刈るつもりだろうか?
そんな事を懸想していた私の上半身を・・・主は優しく抱いた
「・・・馬鹿。」
その声は微かに震えており、身体も僅かではあるが小刻みに震えている気がする
(フフッ・・・)
思わず笑い声を発しそうになるが・・・敢えて私は何も言わない
「この・・・馬鹿・・・何もお前が此処までする事は無かったんだ・・・」
「・・・・・・」
何か言ってあげた方が良いのだろうか?
けれど・・・それによりこの温盛が消えてしまうかもしれない事を考えると言わない方が良いだろうな・・・
「・・・・・・」
急激な眠気が襲い掛かる・・・
多分これが死ぬ、という事なのでしょう・・・
意識を手放すその瞬間、私の頬に雫がこぼれてきた
(主・・・私は幸福です。)
綺麗な音色を聞き、これ以上に無い温盛を感じ、誰かが泣いてくれる事を知った・・・
私の生に意味があるとするならば、今この瞬間の為だったのだろう・・・
「馬鹿・・・が・・・」
「・・・・・・」
あ・・・・・・る・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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