マリトナの到達と統括
(どれ位振りだろうか・・・)
主が徐に仮面を外し出す様を見て、僅かながら感慨深くそう感じてしまう
最後に見た主の顔は今でも鮮明に思い出される
人族の【剣聖】・・・いや【剣神】か
私、主、筋肉馬鹿の3人全員が歯牙にもかけられずに敗れ、主が人質となったあの瞬間・・・
主は僅かに微笑んでいた
それは楽しそう等と言う表情では無く・・・どちらかと言えば寂しそうに映った
「・・・主、楽しいのですか?」
だが仮面を外した今の主はぎこちなくも、目の奥には愉悦の色が色濃く浮かび上がっている
久方振りに見た主の素顔は以前とは違う、新たな玩具を手に入れたかの様な感情で渦巻いていた
「・・・・・・そっか・・・・・・今僕は笑っているんだね?」
当の本人と言えば、自分の頬を手でひたひたと触りながら表情を確認している
どうやら本当に気付いていなかったらしい
「さて主、ご自分の表情を理解されたばかりで恐縮なのですが・・・幾つかお伺いしたい点が御座います。」
「・・・断る。」
恐らく私が何を尋ねようとしているのかを理解しているのだろう
理解しているからこその許否・・・その意味を理解し私は僅かに口角を挙げる
「成程・・・やはり想定通りに何かが有るという事ですね?」
「・・・・・・」
確信を持ってそう告げると僅かに視線を逸らす
そうなのだ・・・
私が何故裏切ったのか?何故この様な事をしたのか?という質問を主に投げかける事は誰でも容易に想像できるだろう
それは主も例に漏れず、私の質問内容を理解している
その質問の答えは『答える事を断る』という事だ
逆説的に考えるならば『答えられる理由ではないから断る』・・・詰まり『答えられない理由がある』と自白しているに等しいのだ
「それは先程に【狂炎ノ道化】に怒鳴られた事と関係が有りますか?」
「・・・・・・」
「それは以前に【狂炎ノ道化】に敗れ、人質になった事と関係ありますか?」
「・・・・・・」
「それは・・・我らが主君【魔神】様に関係ありますか?」
「・・・・・・」
これ以上悟られまいと主は必死に沈黙を貫く
けれど暗殺をこなしていた私からすれば主の表情の機微で確信に近い答えを得る事は簡単だ
(YES,YES,YES・・・)
全ての質問に肯定したかの様な表情を主は浮かべる
詰まりは主が我等を裏切った理由には【狂炎ノ道化】と【魔神】様の存在が関係しているという事だ
(ただ・・・【魔神】様と【狂炎ノ道化】はアレ以降は逢ってはいない筈だ・・・)
【魔神】様から【狂炎ノ道化】との関係はお教え頂いている
元は義理とは言え姉弟だった事、本当に仲が良かった事、姉が居ない間離れ離れになった事、姉は必死に弟を探して旅をしていた事・・・
(そして姉はおかしくなり、【魔神】様はそんな姉を害悪だと断じた事・・・そんな状態の2人の間に主が入った所で何を・・・・・・・・・)
(・・・あっ)
「他者の思考を読めるって事は厄介だよね。知らない方が良い事も知ってしまう。」
私がある結論に到達したと同時に、主の冷たい声が背後から聞こえる
「っ!!」
一気に距離を開けようと、前方に駆けていく
けれども背中に痛烈な痛みに襲われてバランスを崩して倒れ込んでしまった
「さてマリトナ・・・以前の僕と君ならば近接戦は君の方が上手だったけれど・・・今の僕と手負いの君ならどうかな?」
そう言って両手に魔力を込め、両手に魔力で形成した短剣を携えた主が背後で私に向かって構えていた・・・
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