マリトナの矜事と凶事
「さて各々方・・・お伝えはしておりました故に反対意見は無いと思います。次戦は私が出ますが問題有りませんよね?」
私は念を押す意味を込めて【魔神】様と2人の【魔王】に視線を向ける
その言葉に対して何とも言えない表情を浮かべる筋肉馬鹿が映るが、3名とも何も反論する事は無かった
私のそれに満足し、闘技場へと歩を向ける
「・・・おい。」
「・・・なんだ?」
「・・・・・・」
振り返らずとも誰の声かは分かっている
おざなりな返答を口にするとそのまま何も言わないでいる
大方、「負けるぞ」だったり「やっぱ止めとけ」等と宣うつもりだと予想が出来る
「・・・死ぬなよ。あと・・・あの馬鹿の目を覚ましてやれ。」
だが私の予想を裏切ったその言葉を受け思わず振り返る
そこには居心地の悪そうな表情を浮かべる筋肉馬鹿が映った
「・・・ふん、馬鹿め。」
思わず上がる口角を隠し、我が主が待つ舞台へと歩を進める
後ろの方で何か大声が聞こえる気がするが、それは最早気にする事は無かった・・・
◇
◇
「・・・我が主、お久しぶりです。」
「・・・・・・」
舞台に降り立った私達の間に漂う雰囲気は居心地のいいものではない
勿論、それはそうだろう
主従関係があるとはいえ、私は主を止めるために殺す事を厭わない
主もそれを跳ね除けるために私を殺す事は厭わないだろう
「それにしても・・・主は変わられましたね。」
「・・・・・・」
以前の能天気さは御首も出さず、何処か切羽詰まっているかの様な剣呑ならない雰囲気を醸し出している
これが主の素なのか、それとも【狂笑道化団】に入ったが故になのかは分からないが・・・
「主、その仮面には喋れない効果でもあるのですか?前回お逢いした時は声が聞えた気がするのですが。」
「・・・何故来た?」
何故?そんな事は主も理解できている筈だろう
「貴方様を止める為です。」
「・・・前回あれだけ相手にならなかった状態で即再戦だって?」
「・・・そう言えば、主の補佐をするのは私の役目でしたね。では主の思い違いを僭越ながら私がお伝えしましょう。」
「・・・?」
主の言葉に対して私は出来る限り理解しやすい様に、優しく丁寧に回答する
「『男子、三日会わざれば刮目して見よ』という言葉があるそうですが・・・『女子、三時間会わざれば刮目して見よ』という事ですよ?」
「・・・馬鹿がっ!!」
そう答える私に対して怒った雰囲気を醸し出しながら臨戦態勢を見せる
まぁ厳密にいえば悪魔族である私たちに男や女の概念は無いのだが・・・それを理解しても苛立ってくれた様で何よりだ
「さて・・・盛り上がっている所で始めようか。【狂楽ノ道化】VS【瞬殺者】・・・始めっ。」
抑揚のない【真祖】の声が聞えた瞬間、私は動いた
「さようならです。」
一気に背後へ回り、刃を主に突き立てる
「っ!!!」
だがあと僅か数ミリという所で身体の中で警戒音が鳴り響く
その感性に従って直前で攻撃をキャンセルし、主との距離を空けていく
「まぁ・・・これ位は避けるよね。」
主の声が聞こえてそちらへと視線を移す
するとローヴの内側から羽の剣が突き出ていた
しかも・・・
「羽に魔力を纏わせる・・・ですか。」
冷や汗を垂らしながらそう告げる事で精一杯だった
何せあの羽に対して魔力を纏わせているという事は触れただけでも主の魔力が私の魔力を侵食してくるだろう・・・
それに加えてあの鋭利な羽の剣・・・
身体的にも精神的にもダメージを負う事は容易に想像できる
「その通り。だけどそれだけじゃない・・・」
私の回答を肯定しながらも出来の悪い生徒に教えるかの様に言葉を補足する
「羽に魔力を纏わせているとね、タメのタイムラグが短く出来るから次の手札を早く切る事が出来るんだ。」
そう言って翼4枚を一気に悪魔へと顕現させていった・・・
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