クロノの統治と放置
◇
「ふぅ…」
僕は仮面を外して思わず溜息が零れる
今は村の村長宅の1室で休ませて貰っている
僕は獣人たちの願いを取り敢えず断った
そしたら「それはそれとして本日はゆっくりお休み下さい。」とここへ案内されたのだ
「それにしても、ルーシャがこの国のお姫様だったとはなぁ…」
考えてみれば心当たりがある
グーガさんも女性の方もよそよそしかった
【魔王】に突然出会ったにも関わらず意見を言ってきた
村に着いた時、村長たちはルーシャの無事をまず確認していた
グーガさんは僕がいることを暗に村人に告げていた
ただの村人の女性にしては博識な印象があった
「村に匿われていたって言ってたな…」
他国の侵攻の際に人質になるのを避けたのだろう
確かにお姫様が村人の恰好をすれば顔を知らない限りは中々見つけにくいだろう
「けど…僕が実質的な【魔王】になるのはなぁ…」
称号では確かに【魔王】だ
けれど魔族領では【魔王】が国を治めるのが通常である事を当然知らなかった
「…ブロウドさんはそれを知っていたのかなぁ。」
だから称号を得る時に確認してきたのだろうか?
だから仮面に魔王っぽい仕掛けを施したのだろうか?
……多分、知っていたな
知っていたと考えれば辻褄が合ってしまう
行先を指定してきたのは…
『魔王として国を獲りながら向かう』というのが課題だったんだろう…
「でもなぁ…その手にのってしまうのもなぁ~…」
別に王になりたい訳でもない
誰かの命を預かる程の覚悟も無い
ただ魔族として魔族領の生活を見聞するだけのつもりだったのだ
「あぁ~~~!!」
思考が整理出来ずに頭を掻きむしってしまう
「……夜風に当たって来よう。」
仮面を付けて村長宅から外へ出た
◇
今日の夜風はぬるくも無く寒くもなく丁度いい気候だな
そんな事を考えながら散歩すると頭も心もゆったりしてくる
村内は確かに目新しい物は無いが夜でも落ち着いた雰囲気は意外と好ましいな…
「……!!」
「……」
そんな時、不意に何か声が聞こえてきた
なんの声だろうと思い近づいてみる
「クロノ様にこの国の【魔王】様になって頂くことは勿論賛成ですが、問題はやはりご本人に承諾頂く事と首都の者たちに納得させる事です!!ルーシャ様はどの様にお考えですか?!」
「首都も者たちに納得させる事は比較的容易です。私の口添えとクロノ様の強さを見れば必然的に納得せざるを得ないでしょう。問題はご本人のお気持ちですね…」
そんな声が聞こえてしまい、(あ…聞いたらダメなやつだ。)と声の基へ近づいたことに後悔してしまう
ただ議題が自分の事というのが有り去っていく気にもならない
「クロノ様は【魔王】様にも関わらず、今まで国を治めていらっしゃらない御方です。そんな御方にご了承頂くにはご本人に明らかな利益を提示する必要性がありますよね…」
「はい…説得するには何故今まで国を建国をされていないのか?が根底にあると思います。」
「確かに…私が道中にお話しさせて頂いた際も、この国の現状も【魔王】は国を建国する事もご存知ない様でした。恐らくですが魔族領の辺鄙な場所でお1人でお過ごしになられてから旅をしていらっしゃるのではないでしょうか?」
「私も今まで【魔王】様が建国も生まれ育った国の【魔王】に挑戦もしないという話は聞いた事もありません…【魔王】程の強さで統治にご興味がないとは…」
どうやら【魔王】は王になるという欲があるのが通常らしいな
ブロウドさんも魔族は人よりも強さに対して比重が強い様な事を言っていたからその関係なんだろう…
「統治がご面倒なのであれば…我々獣人で執務を行うというのは?クロノ様にはこの国の象徴となって頂くのは如何でしょうか?」
「だがそれは考え方によってはクロノ様を傀儡にすると考えられかねんぞ?!」
「だがクロノ様は1から10まで統治される事にご納得されないだろう…先程にも断られてしまっている訳だしな…」
そんな話し合いが延々と続いているのを聞いて僕はそっと離れた
「統治かぁ…」
村長宅に帰る道中に思わず呟いた僕の声は夜空に消えていった…
いつも有難う御座います!!
「面白い&期待している」という方は★&ブックマークをお願い致します!!
ご感想やレビューも心よりお待ちしております!!