カノンの一矢と一死
「・・・終わりだ。」
魔力量と操作には目を見張るものがあった
だが・・・本当にこの程度の魔族が【魔王】足り得るのだろうか?
そんな疑問が出る程に難しい対戦相手では無かった
(だが・・・命を確実に刈り取った。もし切札を用意していたとしても知る由も無し、か。)
目の前には胴が真っ二つになった亡骸が横たわっている
死ぬ瞬間の表情や周りのゾンビ兵が復活しない所を見ると、絶命したと考えて間違いなさそうだ
亡骸を拝んでクロノ・・・いや【魔神】の元へ向かっていく
(!!!!)
だがその瞬間、背後の【魔王】の亡骸が強烈な光を放ちだす
そして暫く光を放ちだすと同時に確かに真っ二つにした筈の上半身がムクリと動き出し、こちらへ視線を向けてきた
「・・・効いたよ。」
「・・・何故生きている?確かに絶命したのを確認した筈だが。」
「あぁ、コイツのお陰だ。」
そう言って懐から黒い玉を取り出す
それを見た瞬間、ピンときた私は回答を求めるべく口を開く
「・・・【宝珠】か。」
「そうだ。【命ノ鎖】・・・人族領では『ライフチェイン』と呼んでいるのか?うちは商業国家でね・・・珍しいもんや価値あるもんは真っ先に俺の手元にやってくるのさ。」
奴の言う【宝珠】がどの様な効果があるのかは理解しきれていないが・・・死んだ者を生き返らせる能力を有している可能性は高い
だがそれは・・・
「【宝珠】はただの便利な道具ではない。全ては相応の対価を支払わなければならないが・・・貴様は何を支払った?」
「あぁ簡単だ。俺が生き返ったら同時契約している対象5名の命が失われる程度の対価だ。今頃国の誰かが5人死んでいるだろうよ。」
「・・・屑が。」
己以外の命を全て無価値と断ずる傲慢さが俺を怒りに誘う
だが・・・そんな怒りを余所に奴は急激に笑みを消す
「まぁ、【宝珠】がそういう仕様なんだから仕方無ぇ・・・それよりも・・・よくもやってくれたな。」
ーーードクンーーー
奴がそう言った瞬間、身体全身が激痛に襲い掛かって来る
立ち続ける事も出来ず、思わず片膝を付く
「まさかこの俺様が人族相手に一度とは言え死んじまうとはな・・・最早洒落じゃ済まねぇ。」
「き・・・さ・・・ま・・・」
「おうおうおう、苦しいか?一瞬で終わらせてやっても良いんだがな・・・それじゃあ俺様の気は休まらねぇぞ。」
「がぁっっ!!!」
そう言って片膝を付き、まともに呼吸が出来ない私を無造作に蹴り上げて来る
突如いう事を聞かない身体の所為か、まともに思考も追いつかない
「まともに理解出来てないって感じだな。これだからお前ら人族は下等種族って呼ばれんだ、よっっ!!!」
「がぁっっ!!!!」
身体能力はどうやら変わっていない様だが・・・明らかに性格や言動に先程とは相違がある
理性の皮を剥げば好戦的な性格なのか、将又他に要因があるのか・・・
(くそっ!奴の言う通り思考が定まらない・・・少しでも気を抜けば意識を刈り取られそうだ。)
突然変貌した【魔王】の性格
何をされたのか理解出来ない能力
簡単に理解できるものでは無いかもしれないが・・・このまま何の抵抗もせずにやられる訳にはいかない
そう思いながら娘と息子を見る
「・・・ふっ。」
娘は心配する様な表情で私を見つめ・・・息子は仮面を被っているからどんな表情を浮かべているかは分からんが・・・心配している様な雰囲気を醸し出している
(全く・・・親孝行な子供たちだな。)
大義の為に殺そうとした娘
本人たちの希望だと言い訳をし、脆弱なままで送り出した息子
そんな子供たちが、老い先短い私の身を案じてくれている
「・・・アカノには特に、二度も死に顔を見せる訳にはいかんな。」
残り少ない魔力と十全では無い体調で目の前の【魔王】相手に一死報いる手段を模索し始めた
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