カノンと一瞬の一蹴
「・・・どうした?生物の形を模した動くだけの兵団を斬った位で驚き過ぎだ。」
「き、貴様ぁ・・・」
目の前の対戦相手はそう言って憤慨する様子を見せるが・・・正直理解出来ない
意志無き兵士等は一定量居たとしても何ら脅威には成り得ない
それと同時に新たな疑問が湧き上がる
(・・・目の前のコイツは、本当に【魔王】なのか?)
肉付きや立ち居振る舞いを観察すると純粋な戦闘型では無い事は理解できる
さり気ない動きにも気を配ってもブラフでは無い事が裏付けられる
「重戦士隊っ!!相手の動きを制限しろっ!!魔法隊っ!!!最大火力で重戦士隊諸共に魔法を撃ち込めっ!!遊撃隊っ!!近接では無く中距離攻撃を維持していけっ!!!」
【魔王】が捲くし立てるかの様にそう指示するとゾンビ兵が一斉に動き出す
成程・・・確かにセオリー通りの指示ではあるが、余りにも凡庸だ
私が片脚が義手である事を考慮したとしても・・・舐めているとしか言いようがない
15程の重戦士達が襲い掛かって来る隙間を剣を顕現して回避していく
そして詠唱を始めていた魔法隊約10程を撫で斬っていく
遊撃隊には複数の剣を顕現させ、1体につき1本の剣を襲い掛からせて始末した
「残りは動きが緩慢である重戦士隊のみか・・・【魔王】の実力がこの程度であるとは些か拍子抜けにも感じるな・・・」
「・・・貴様ぁ」
私の安い挑発にも反応してくれるという事は、如何に理性的であろうとも好戦的な魔族は聞き流す事が出来ない証左だと頭の片隅に留めた
◇
◇
「・・・強いな。」
「旦那様・・・お父上は昔から此処までお強かったのですか?」
「・・・そうだね、昔は僕自身が此処まで父さんの強さを理解出来なかったけれど・・・やっぱり強かったな。」
ダンキとファーニャの感嘆に頷きながらそう返す
父さんは確かにいつでも圧倒的に強かった
魔族みたいに特筆するべき素早さや力があった訳でも無く、姉さんみたいに極稀な称号があった訳でも無い
【剣豪】はレアな称号ではあるけれど、冒険者の中でもチラホラと見かける程度の称号でもある
「・・・多分、父さんは鍛錬のみであそこまで上り詰めた稀有な例だと思う。」
僕がそう続けるとダンキは父さんを食い入る様に見つめながら頷く
ダンキはステータスを頼りに力づくで相手を斬り裂く剛の剣、父さんは静かに技を繰り出し気が付けば斬り伏せている柔の剣とでも言うべきだろうか?
戦い方の方向性に差異はあっても同じ剣の使い手という事で思う所があるのだろう・・・
今の攻防戦は父さんの圧勝だと言っても差し支えない
(だけど・・・)
【狂笑道化団】の一員にして【魔王】でもあるポセイランがこのままで終わるという事も考えにくい
そう考えさせられる焦燥感が自分の中に燻っていた
◇
◇
「・・・相変わらずだ。」
父さんの剣戟を目の当たりにして私は羨望と尊敬、嫉妬の念に駆られる
1つとして無駄な動作が無く動けるという羨望
【剣豪】という称号でありながら此処まで辿り着いた事実による尊敬
そして・・・私には辿り着く事が出来ないであろう事実による嫉妬・・・
私は冒険者としての高みに辿り着いた筈だ
だがそれでも父さん程の剣士を見た事が無い
それはつまり・・・常人ならざる鍛錬と常人ならざる思考の基に辿り着いた境地という事だ
(まるで・・・)
「化物ですねぇ・・・」
私の感想を言語化しながら【狂悦】が近づいて来る
その表情は口角を上げながらも、何処か警戒した目を父さんに向けていた
「・・・なんだ?」
「いえねぇ、たかだか人族の身で修練、鍛錬のみであの境地に至ったお父上を称賛しようと思いましてねぇ。」
「・・・お前でも理解できるのか?」
「えぇ、私如きでも理解できる程の化物なんですよぉ・・・以前は羽虫程度だと考えていた輩が強くなった。これだから研究は止められませんねぇ・・・」
そう言って【狂悦】はニヤリと嗤った
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