【間章】~~追憶Ⅹ~~
「よぉ~し・・・2人とも揃ったな?今日は剣での戦い方を教えるぞ!!」
そう言って目の前の子供2人を見つめる
1人は素直に頷くも、もう1人は今日もでしょ?と言いたげな表情を浮かべる
そんな2人を見つめているとフッとあの時の事を思い出す
あのガキを助け、養子にすると様子を見に来た仲間に告げると驚くと同時に反対された
だが・・・目の前で哀しそうなガキの表情を見て、渋々ながらも了承してくれたのは良い思い出だ
あれから再度各国の兵士が出兵して、例の国を検分したらしいが・・・誰一人として生きておらず、あるのは死骸のみだったそうだ
黒い噂のあった王も、王座で磔にされておりこと切れていたそうだ
そうなると例の国を何処かの国が吸収合併するのかと思っていたが・・・意外にもどの国も例の土地を欲しがらなかったそうだ
国民は誰一人生きておらず、国規模で曰くが付いた場所だ
俺たちが報告した事から疫病があっても可笑しくないと考えたり、恨んだ魔族から襲撃を受ける可能性も否定できないという事が理由であるらしい・・・
それ故に例の場所は人族領全体の共有地で有りながらも、誰も近づきたがらない通称【終末ノ亡国】と呼ばれた
(あれから5年・・・か。)
今ではあの時のガキも気弱さが消え、活発ではないものの素直で大らかな性格となった
理性的である分、娘と正反対ながらも良い相棒となりそうだ
確かに能力は秀でている者は無いかもしれない
だが、それを差し引いても俺の息子だと言えるくらいに互いに心許しあえていると思う
意外だったのは娘だ
最初は黒髪黒目だったガキに多少戸惑っていたものの、3日も経過しない内に年下のガキに慣れて溺愛している様に見受けられる
男親としては思う所が無い訳では無いものの、それが家族としてなのは異性としてなのかは今未だ分からない
(まぁ本人も理解できていないだろうがな・・・)
一心不乱に木剣をふる2人を眺めながらそんな風に思う
あと数年もすれば娘も教会で称号を与えられる
感覚でしかないが、剣筋を見る限り剣士職であるのは間違いなさそうだ
(称号を得たら直ぐに冒険者になるかと思ったが・・・それは無さそうだな。)
恐らくガキ・・・いや息子が称号を得るのを待って2人で旅立つだろう
それまでに親である俺が出来る事と言えば、この2人が死なない様に鍛えてやる事位である
「よぉし、じゃあ今から2人で模擬戦を始めるぞっ!!アカノ、お前は姉ちゃんなんだから少しは手加減しろよ?!クロノ、お前は姉ちゃんに致命的な一太刀を与えろよ!!」
2人をそう言って奮起させる
その言葉にアカノは素振りよりも模擬戦の方が良いのか笑みを浮かべて頷き、クロノは素直に頷きながら一太刀与える手段を既にシュミレートしている
その様子を見ながら、今朝に届いた指名依頼の封書を無意識に握りつぶしている事に気づく
「・・・ったく、嫌な事を思い出したのはコイツの所為かねぇ。」
国の刻印である国印がある指名依頼である以上、冒険者に拒否権は無い
ギルドが中立国家と言われていても、間借りしている以上は相手に正当性があれば拒否できないところが辛い所だ
アカノとクロノの模擬戦を俯瞰的に眺めながら、再度出向かなければならない【終末ノ亡国】へと意識を向けるのだった
本話にて本章は終了です。
此処までお付き合い頂きまして誠に有難う御座います。
次章はこれまでより1番長くなる(予定)です。
これからもご愛読をお願い致します。