アカノの初心と傷心
「ただこれじゃあ姉さんがわざと負ける可能性があるから、僕と姉さんで賭けをしようか。」
「・・・賭け?」
当然と言えば当然なのだろうが、クロノがその様な部分を見逃す筈がない
私が復唱すると頷きながら賭けの内容を説明してくる
「姉さんが【魔神同盟】の誰かに勝ち、尚且つ僕等が敗北という形になれば、僕は潔くこの組織を止めるよ。ただ、姉さんが敗けて僕等が勝てば当然だけど僕等は止まらない。」
「・・・・・・。」
「因みに当然だけど姉さんが敗けて僕等も敗けていれば止まらざるを得ないだろうし、姉さんが勝って僕等も勝った場合は僕等は止まらないよ。」
だとすると、私は自分が勝ちながらもクロノ達の敗北を願わなければいけない
私が敗け、クロノ達も敗けていれば私たちが無事である保証はない
「姉さんどうする?僕としては受けたくない賭けだけれど・・・相手が姉さんだからこその最大限の譲歩だよ。」
「・・・分かった、その賭けに応じよう。」
そう答えるとクロノは満足そうな表情を浮かべる
そして【狂悦】の方へ視線を向けると【狂悦】はこの場から立ち去って行った
「じゃあ皆、【狂悦】が戻ってくるまでは自由という事で。」
クロノは【狂悦】が立ち去るのを見届けると、そう言って一度場を解散させた
◇
「・・・【狂楽】、少し良い?」
「・・・・・・。」
私は会議が一度解散となったタイミングで【狂楽】・・・いやロキフェルに声を掛ける
偽物のクロノを名乗っていた【魔神】を裏切った彼女は、以前に私の捕虜となった際は色々と話をしてくれていたにも拘らず、【狂笑道化団】で合流してからは途端に無口になってしまった
「君はどうしてあの【魔神連合】を抜けて此処に?やっぱり【魔神】は碌でもない存在だったの?」
「・・・・・・。」
私の質問には答えず、だが拳を力の限り握りしめている
それがどの様な感情であるのかは分からないが・・・もしかすると余程辛い事があったのかもしれない
「もし【魔神同盟】と戦う事になったなら、私はあの【魔神】と戦いたい。・・・アイツの事を教えて貰えないかな?」
「・・・・・・駄目だよ。」
私の質問にロキフェルは初めて回答する
これまでも何度か話しかけてはいたが、そのどれもが黙殺されてしまい会話としては成り立たなかった
にも拘らず【魔神】の事を尋ねると返答してくる彼女に驚いてしまう
「貴女は【魔神】・・・とは戦っちゃ駄目だよ。」
「・・・どうして?」
「・・・・・・。」
けれど彼女の答えに質問すると、やはり答えてくれずにその場を離れていく
僅かながらも身体を小刻みに震わし、これでもかと言う程に拳を握りしめながら・・・
「嬢ちゃん、誰だって言えない事や言いたくない事くらいはあらぁ。放っといてやりな。」
暫し呆然とした私に対して背後からゴーガンがそう声掛けてくる
「ゴーガン・・・」
「魔族の考えなんざ俺ぁイマイチ理解出来ねぇが・・・アイツが何かを背負ってる感じなのは理解出来るんだよ。」
「何か・・・?」
「あぁ、それが何のかは俺も当然知らねぇ。だがな・・・魔族でもあるんだろうよ。『何を賭しても守るべきもん』ってヤツがな。」
何を置いても守るべきモノ・・・
その言葉が胸に響いてくる
私が守るべきものはクロノだった
けれど、クロノを守る事とクロノの望む通りにする事は決して同意ではない
「・・・ハハッ。」
思わず口から自虐的な笑いが零れる
私はどうしてソレを同意だなんて思っていたのだろう?
私が望んだのは上下間の関係性ではなかった筈だ
私が望んだのは2人で並んで歩いていく様な・・・・・・
その事を思い出し、思わず目が潤んでしまった
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