アカノの岐路と鬼路
「それでも【狂炎】様からすればこの様な些細な事でお呼びしてしまい恐縮では有りますが・・・何卒良しなに。」
そう言って一礼をしてくる【狂信】には異質な恐怖を感じてしまい、表情には出さないものの・・・私は非常に困惑してしまう
それを察したのか、今度は【狂戒】が口を開く
「あ~・・・なんだ【狂信】、悪いが【狂炎】の剣をメンテナンスしなきゃなんねぇ。悪ぃがちっとばかし時間を貰って良いかい?柄の握り具合も確認したいから【狂炎】も借りたいんだがな。」
【狂信】はその言葉を聞くと、今までの様な慈愛に満ちた表情では無く・・・無表情で虚ろな瞳で【狂戒】を見つめる
それは何処か、人の本心・・・深淵を覗き込む様な視線に見え、私はまた恐怖感を覚える
「・・・駄目かい?」
暫し無言で【狂戒】を見つめ続けていた【狂信】は、その言葉を聞くとニコッと笑いながら首を横に振る
「まさか・・・【狂炎】様には十全のお仕事をお願いしなければなりません故、お断りする訳が御座いません。ただ・・・いつ誰が気付くかもわかりません為にお時間は然程与える事が叶いませんが・・・。」
「あぁそれで充分だ・・・じゃあ嬢ちゃん、こっちに来い。」
ゴーガンは私にそう言って林の奥へ誘導する
そして数分程移動した所で立ち止まり「ん。」と手を差し出して来た
【赤炎】を渡し、2人揃って腰を下ろすと・・・ゴーガンは【赤炎】を見ながら口を開く
「なぁ、嬢ちゃん・・・聞いただろうが、今からお前さんが行う事は・・・只の大領虐殺だ。罪も無く、怨みも無く、大多数がただ平和に生きたいだけの人族だ。男も女も子供も老人も関係無く・・・ただただ焼き殺すだけの作業だ。・・・嬢ちゃんはそれで良いのか?」
「・・・・・・。」
その言葉に何故か『それで良い』と即答できない
私はクロノ以外の全てを切り捨て、クロノの傍に居る事を誓った筈だ
なのに・・・クロノの願いを達成する為に無関係な人族を焼き殺す行為に、どこか忌避感を抱いている
「そうか・・・もうひと踏ん張りって所だな。」
そう呟きながらもゴーガンは剣のメンテナンスを続けていく
私は彼が何を言っているのか理解は出来なかったが、それよりも自分が如何に意志が弱いのかを痛感せざるを得ない
「・・・私は既に・・・無関係な人族を何百人も斬り捨てている。今更・・・後には戻れない。」
辛うじて出てきた言葉はそれだけだ
だが私のそんな言葉にゴーガンは視線を合わせずに笑い出す
「誰だってそんなもんだ・・・そんな事を言えば俺なんて・・・数千人位の人生は変えているぜ?」
「・・・えっ?」
目の前の男の言葉に思わず驚く
だがゴーガンはそのまま愉快そうに笑う
「俺の鍛冶師の腕がもっと良ければ助かる命もあった筈だ。若しくは悪ければ助かる命もあった筈だ。・・・エンチャント付与させる武器を造る事を止めなければ助かる命もあった筈だし、止め続ける事で助かる命もあった筈だ。・・・何をしても、何を選択しても遠い枝先の何処かでは助かる命も有れば失う命もあるってことよ。」
「でもそれは・・・」
彼の言葉に詭弁だと言えない自分が居る
そんな私にゴーガンは言葉を続ける
「嬢ちゃんは多分、自分自身で命を刈った事に自責の念を抱いているんだろうが・・・そんなもんは飽くまで結果論だ。時代、動機、道具、能力、思考、タイミング、運・・・それらが複雑に絡まりなるようなっただけの話よ。要は・・・ただそれだけって事だ。」
「・・・そこまではとても。」
「だろうな・・・だからこそ今だ。此処で嬢ちゃんが人族を焼いても焼かなくても・・・それが奴等の運命って事だ。・・・まぁ安っぽい言葉だけどよ。」
そう言いながら苦笑した表情を見せるゴーガンに不思議と安心感が湧いた
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