ブロウドの誤りと謝り
「・・・そこに居るのだろう?」
クロノ君に敗れ、【黒家クロノス】へ向かう道中深夜深く・・・私は彼から少し離れた場所でそう呟いた
誰が来たのかは分かっていた
そして・・・何故来たのかも分かっていた
案の定、暗闇の奥深くから1人の女がヨロヨロとした覚束ない足取りでこちらに近づいて来る
見慣れた姿・・・感じ慣れた魔力を携え、けれども今までに彼女からは感じた事の無い雰囲気を感じる
「・・・私の神様。」
そう言った彼女の瞳は暗く、今までに信じたモノ全てを失ったかの様な様相を見せる
そしてそれが間違いで無い事も私は知っていた
「やはり君か・・・」
「私の神様・・・有り得ない事をお聞きしました。真実でない事は理解しております・・・そんな訳が無い事も私が誰より・・・何よりも理解しております。ですが・・・愚かな私に啓示下さい。」
「・・・・・・。」
今までの私ならば「で?」の一言で終わらせていただろう
けれど・・・今の私には残酷すぎる言葉を彼女に吐かなければならない事実で押し黙ってしまう
彼女は当然、そんな私の胸の内を知る由も無いだろう・・・かすれた声で言葉を続ける
「至高の存在足る貴方様・・・私の神様にこの様な事をお尋ねする事自体が不敬では有りますが・・・クロノ・・・あの無能で愚かで脆弱で矮小な魔族のなりそこないと貴方様が戦い・・・貴方様が敗北したとお聞きしました。」
「・・・・・・」
「いえっ!!私は勿論、サイクスも信じては居りませんっ!!ですが・・・その様な戯言を看過出来る筈もなく・・・恥ずかしながら出向いた次第です・・・」
「・・・・・・」
「どうぞ愚かな私をお導き下さいっ!!!貴女様は・・・あの無能には・・・敗けておりません・・・よね?」
「・・・・・・」
彼女の言葉に何も言えなくなる
今だからこそ理解できるが・・・彼女はこれまでの人生全てをなげうって私の為に奔走した
それこそ善悪の境界線で動くでは無く、私が笑う可能性があるか否かが境界線として、だ
そんな彼女にしてやれる事・・・
(やはりハッキリと言うべきなんだろうね・・・)
そう決めて私は口を開く
「・・・ヴァリア。」
「は、はいっ!!」
その瞳は希望に満ちている
それを見て・・・思えば彼女の名を仮初だと知っていても呼んだのは初めてかもしれない
今更ながらその事に罪悪感を募らせてしまう
「・・・ご苦労だった。私は・・・彼のお陰で感情と言うモノを思い出したよ。」
「は・・・はい?」
「君たちが私の為に奔走してくれていた事実には感謝している。・・・本当に感謝している。」
「・・・え?」
「私はクロノ君のお陰で・・・驚きを得て、興味を得て、安らぎを得て、喜びを得た。」
「・・・・・・。」
「結局の所、私は私の願いを捨てきれなかったのだ。・・・だからこそ進化の一歩も踏み出せないこの世界に勝手に絶望し・・・勝手に感情を失くした。」
「・・・・・・。」
「だが彼、クロノ君のお陰で・・・私は願いの原点を思い出したのだ。」
「・・・願いの原点。」
彼女が私の言葉を反芻する
そう、願いの原点だ・・・切欠は何故だったのかを思い出したのだ
私は頷きながら言葉を続ける
「そうだ・・・。それを思い出したからこそ私は感情を思い出した。私が求めていたのは面白い事でも進化の可能性でも無い。・・・何故願ったのか?という原点を思い出すべきだったのだ。」
「・・・・・・。」
「私はその原点を基軸として今後も世界の進化を願う。・・・だから」
思わず言葉に詰まる
彼女にこれからいう事は彼女の全てが無為だという事と同義だからだ
「だからこれから君たちの助けは必要ない・・・君は君で思う様に動けば良い。・・・これまで本当に有難う。」
そう言って頭を下げる私の頭を頭上で虚ろな視線がが突き刺す様に見つめる視線を感じ続けていた
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