イファンの信仰と侵攻
「・・・近隣諸国に住まうインスラン神の敬虔なる従僕の皆様、この度は火急の避難要請にも拘らず、この様な形で応じて頂き、感謝の念に堪えません。」
そう言って一礼すると集められた人族達も一礼を返してくる
その目という目には様々な感情を感じる
ある者の目には羨望が、ある者の目には疑心が、ある者の目には反骨心が見え隠れする
けれど私はその感情の全てから目を逸らし言葉を続ける
「先日に世界各地に流れた【狂笑道化団】なる組織の言葉を皆さまも聞かれた事でしょう。あれは決して大袈裟に吹聴しているという事ではないと判明いたしました為、火急では有りますが皆さまを召集させて頂きました次第です。」
「【聖女】様っ!!大袈裟ではないとはどういう事でしょうか?!!」
民衆に埋もれた誰かが後方から声を張り上げ質問をして来る
私の言葉を遮る傲慢さに若干苛つきはしたものの、ある意味予定通りでもある
「皆さまの聞かれたあの声・・・ベッツルー王国が滅んだとの声明を聞き、私は彼の国を偵察する様に命じました。そしてその報告結果ですが・・・。」
私がそこまで告げるとまた静寂が場を支配する
重苦しい空気により私の後方に控える大司教達も私に視線を向けているのが伝わる
「彼の国は文字通り滅んでいたとの報告でした。しかもただ滅んでいた訳では有りません・・・誰一人、文字通り誰一人として生存が確認出来なかったのです。王が死に、貴族が死に、平民が死に、冒険者も死んだでしょう・・・孤児も犯罪者も老若男女、身分統制の区別無く・・・文字通り死に絶えていたのです。」
「残っていたある商人の記録簿によれば、最新の取引日は彼の国が滅んだ前日まで記載があったそうです。つまり・・・」
「【狂笑道化団】を名乗る組織は遅くともたった1日で1国を滅ぼしたのです!!!」
私がそう言い切ると同時に周り一帯から「おぉぉぉぉーーー!!!」と叫んだり「もうお終いだ!!」泣き喚いたり、ガチガチと震えてへたり込んだりする輩で溢れかえった
人族魔族の区別なく、全てを亡ぼすと宣言している連中が相手だ
明日は我が身どころか近い将来には確実に訪れる死という概念はそれほど迄に絶望的なのだろう
後ろにいる大司教達も人目もはばからずにオロオロとした様子を見せ始める
その様子を暫し眺め、思わず軽く溜息を吐いてしまう
(此処まで信仰が薄い信徒ばかりだと・・・神が呆れ返るお気持ちも理解できるわ。)
信仰があれば助かるとは言わない
だが信仰があればそれすらも神の思し召しだと何故理解出来ないのかが私には理解出来ない
「静まりなさいっっ!!!!」
私の出来る限り張り上げた大声に対し、皆は次の言葉を待つ様に再度シンッと静まり返る
起は提示し、承は先程に伝えた
これから転結により、神が望む状況を造り出していく
私はプランを反芻しながら再度口を開く
「彼の国、ベッツルー王国の件は大変痛ましい事件です。ですが・・・彼の国はインスラン神様への信仰も薄く、魔族領とも離れていた為に兵の練度も高くなかったと聞き及んでおります。ですが私たちはどうでしょうか?!」
「「「おぉぉぉ・・・」」」
此処へ来て自分たちの神への認識を強める事が出来た
人族は余裕があれば神への感謝を忘れ、窮地となる程に神への信仰が強くなる
それの模範的なリアクションと言えるだろう
「そうですっ!!我が国は当然ですが、近隣諸国に住まっていた貴方達もインスラン神への信仰、敬愛、尊敬は決して低くは無い筈です!!それに加え幾日が歩けば魔族領だけではなく龍族領へも移動可能な距離である為、その国も危機感を以って練度を怠ったりはしていない筈です!!神ヘの信仰と私たちの兵の練度があれば・・・【狂笑道化団】等恐れる必要が有りません!!!」
「「「「おおおおーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」」
私がそう告げた瞬間、大広間には先程とは違う歓声の様な地鳴りが鳴り響いた
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