マリトナと非情な事情
「・・・ふぅ、強くなったね。」
我が主はそう言って魔力を霧散させる
最早勝負は決したと言わんばかりの態度に苛立ちを覚えるも・・・最早動く事さえもままならない状態では致し方ないとも思える
「主君・・・私を殺さないのですか?」
「ん、殺さないよ?と言うよりも強くなったとは言え、その程度じゃ殺す価値はないよね。」
そう言って朗らかに微笑む主に再度苛立ちを覚える
そして冷静に頭の中で自問自答を繰り返す
(私は2年間修業した末にあの筋肉達磨ともそれなりに良い勝負が出来ていた・・・なのに主君とは・・・)
ほぼ一方的に嬲られたに等しい先程の戦闘を思い出し、依然と比べて明らかに強くなっている事に疑問を感じざるを得ない
だがそれよりも・・・
「主君・・・本当にクロノ様を・・・私たちを裏切るのですか?」
最早声を張り上げる力すらなく弱々しくもそう尋ねる
すると暫し思案した表情を浮かべてた後、にこやかに「うん、そうだね。」と答えてきた
「・・・何故ですか?」
「それを君に言う必要は無いけれど・・・強いて言うなら楽しんでいた観客が舞台に上がりたくなったという所かな?」
「その舞台が・・・【狂笑道化団】だと?」
「・・・そうだね。お兄さんもお姉さんを追っているし、お姉さんもお兄さんを追っている。それを観客として見るついでにもっと愉快な事が出来そうな道化団に入っても良いかな~ってね。」
「・・・貴方は、間違っている。」
「・・・だろうね。それは勿論自覚しているし理解もしているよ。たださぁ、間違いのない生なんて面白くないでしょ?」
「・・・それでもその間違い方は最悪です。」
そう告げると表情が一瞬強張る
自分から進んで間違おうとしている主君がその指摘に強張る理由が理解出来ない
けれど直ぐにいつもの表情に戻り言葉を続けてきた
「ふ~ん・・・だったらマリトナ、君が僕を止めて見なよ?」
「・・・私が?」
「お兄さんも【真祖】から課題を出されてたでしょ?それを真似て僕から君へ課題を出すよ。課題内容は『僕を殺して止めてみろ』にしようかな。」
「・・・何を」
「言っとくけれど僕は止まる気は無い・・・それをどうしても止めたいのなら・・・掛かってきなよ。」
そう言って先程の戦闘と同様に魔力を練り上げる
この人の性格は知っている
此処で私が承諾しなければ、あの魔力を私に撃ち込む事は容易に想像できる
「・・・分かりました。」
そう言うと同時に魔力が霧散される
そして相も変わらず屈託のない表情で私に対して口を開いて来る
「うん、じゃあ今から課題をスタートするにしようか。流石に今の君では僕を殺す事は出来ないだろうし、課題をスタートして直ぐに殺すのも面白くないからね・・・今回は此処で引き下がっておくよ。」
そう言って背を向け去って行こうとする
僅かに動く右腕を主君に向けるが・・・どうしても力が出ない
「あ、そうそう。」
そう言って立ち止まり首だけ此方へ振り返る
「君たちを此処に縛っている間に他種族を攻め込ませているからね。まぁ今頃は城もなくなっているだろうけど・・・ね。」
「!!!!」
「じゃあねぇ~。」
そう言って消えていく主君・・・いや【狂楽の道化】を見送る事もせずにファーニャ様が居る城の方へ視線を向けると・・・黒い煙が複数立ち上っていた
「早く行かなければっ!!!」
そうは思うものの身体がピクリとも動いてくれない
サラエラの方へ視線を向けると・・・彼女もまだまだ魔力が回復していない様子で立ち上がりはするものの足元は覚束ないみたいだ
「・・・ぐっ!!!」
仲間が危機的状況にある事を知りながら、全く動く事が出来ない状況が此処まで歯痒い気持ちになるとは正直思いもよらなかった・・・
数時間後・・・何とか歩ける様になった私たちは城の方へ戻って行った
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