【間章】真祖の合議と抗議
「母よ・・・お怪我はございませんか?」
「・・・・・・。」
儂がそう声を掛けても母は何も語らず、ただ微笑みを浮かべているだけ
それ自体は決して珍しい訳では無い
寧ろ母が声を出して視線を向けること自体が非常に珍しく、ましてや母自らが戦闘行為を行うさまは初めて目の当たりにした
「母よ・・・。」
だからこそ・・・儂はあの不敬な【真祖】に対し、母が声を掛け、視線を向け、あまつさえ戦闘行為を行ったという事実は認めたくない程の嫉妬に駆られる
母と共に戦う事は至高の幸福ではあった
だが・・・母に敵視されながら立ち向かわれる事もの方が尊いのではないか?と思わずにはいられない
「母よ、ご安心ください。あの愚弟は我自らが罰してやりましょう!!」
ただ微笑んだ表情を浮かべる母を見上げて我は決意を新たにそう宣言する
「・・・それはお母様の願いでは無く、貴方の嫉妬では無いかしら?」
「?!!」
そんな声が聞こえ、視線を向けると・・・妖精霊の【真祖】であるファスミーヤがどこからともなく現れてくる
「ファスミーヤ・・・」
「お母様・・・御機嫌よう。アナタ様の娘、ファスミーヤがお伺いに参りました。」
儂の呟きを無視し、彼女は母にそう一礼を行う
そして儂に視線を向け睨みつけてくる
「そもそも貴方が長兄の様な物言いが鼻につくわ。・・・私たちは同時に創造されたのだから兄も弟も姉も妹も無いわ。」
「・・・知っている。」
思わず吐き捨てる様にそう呟く
確かに儂等に順列は無い・・・だが母に一番孝行している儂が長兄でも問題無いだろう?
そうは思うものの勝手にそう名乗っているのを聞かれた手前、体裁が悪い
「だったら勝手に兄だのなんだの名乗らないで貰える?私は【真祖】、そこに上も下も無いわ。・・・ある意味貴方が一番安寧から程遠いのかしらね?」
「なんだと?!!!」
今の言葉は聞き捨てならない
母の願いに誰よりも寄り添い、誰よりも尽くしてきたのは儂だ!!
「だって貴方は私たちより上の位置で居たいんでしょう?私もブロウドもそれに執着は無いわ。誰よりも優れている、誰よりも認められているという欲こそが安寧とは程遠い感情よ?」
「ぐっ・・・。」
そう言われてしまえば反論の余地が無い
苦虫を潰したかの表情を浮かべ、ファスミーヤを睨みつける事しか出来ない
「・・・それよりファスミーヤ、貴様何しに此処へやって来た?」
「お母様のご機嫌伺いが1つ、それとブロウドの事を兄上に教えてあげようと思ってね。」
「・・・・・・。」
一々皮肉を入れてくる事に腸が煮えくり返る思いではあるが・・・ブロウドの事は少々気になる
「あの負け犬がどうした?アイツなら先程に母と儂で痛めつけた所だ。」
「・・・えぇ、それは知っているわ。だから私が告げるのはその後の事だけど・・・ブロウドは自分の眷属へ下ったわ。」
「?!!!」
その言葉は余りに衝撃的だ
奴は腐っても【真祖】だ・・・その様なプライドもない様な行動を起こすとは・・・
「あの馬鹿がっ!!奴には【真祖】としての誇りはないのか?!!」
「あのねぇ・・・。」
憤る儂に対して呆れる様な視線を投げかけてくる
「言っておくけど・・・ブロウドは無条件で下った訳じゃないわよ。2人は戦ってそして眷属が勝った・・・だから傘下に下ったのよ。」
「なっ?!!!」
有り得ない!!そんな言葉が脳裏を掠める
母と儂が致命傷を負わせたと言っても、それでも奴は異常に強いのは自分が身をもって知っている
「因みに彼は【不刻響閉】を使用して尚・・・ね。まぁこんな所に居たお母様と貴方は何も感じなかったでしょうけど。」
「?!!」
たかだが眷属が奴の【不刻響閉】をも破ったというのか・・・
それは最早・・・
「眷属などの枠には当てはまらず・・・【真祖】の域に達するぞ。」
「でしょうね。まぁそれでもブロウドが致命傷を負っていたというのはこれ以上になく有利に働いたでしょうけど・・・。」
奥歯を噛み砕く勢いで歯軋りをしてしまう
まるで母や儂がその眷属を手助けしたかの様に思ってしまうではないか・・・
「・・・何処の眷属だ?」
「貴方も聞いているでしょ?彼が懸想していた、彼のローヴを纏っていた【魔神】よ。」
「・・・名は何と言う?」
「・・・クロノ=エンドロール。それが魔族領の半分近くを牛耳り、彼を倒した【魔神】の名よ。」
「クロノ=エンドロール・・・。」
目が異常に血走る
これは【真祖】としての責務なのか、兄弟を倒された忸怩たる思いなのかは定かでは無いが・・・
儂はその名を記憶に刻んだ
いつも有難う御座います!!
本話にて本章は終了です!!
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