クロノの思案と私案
「しかしクロノ・・・お前は最早身も心も魔族になったのじゃなぁ・・・。」
そう言ってルナエラは僕を見つめる
その目は侮蔑する要素は無く、若干の憂いを帯びている様に感じた
「まぁ、そうだね・・・。正直僕は、人族に戻りたいとも思っていないよ。」
「アカノが正気を取り戻してもか?人族のアカノにとっても今のお前の魔力は毒だぞ?」
「姉さんが正気を取り戻したら・・・魔族になって貰おうと考えているよ。」
僕がそう言うと驚いた表情を浮かべる
「お前も【真祖】と同じ術を身につけたのか?!」
「いやまだだよ・・・ただ不可能ではないと思っている。」
「ではアカノを正気に戻した後はどうするんじゃ?まさかアカノにとって毒である魔族領に居らせる訳にもいくまい。」
「その時は人族領で待っていて貰うと思う。ただ・・・それまで人族を滅亡させないという訳じゃないからね?」
そう告げると苦笑の表情を浮かべる
恐らくルナエラは姉さんが正気になり、魔族になるまでの猶予期間の言質を得たかったんだと思うけど・・・流石に無条件でそこまで許容は出来ない
「まぁそれも人族から得られる情報によるかな?わざと隠ぺいされたりしたらやっぱり信用できないし、ね?」
「・・・クロノ、やはりお前は油断ならんなぁ。」
「いやいや、シレっと言質を取ろうとしたルナエラの方が油断出来ないけどね?」
そう言ってお互いに「フフフ・・・」でも言いそうな表情を浮かべた
ファーニャとサラエラは何とも言えない微妙な表情を浮かべている
「まぁ、お前の話は分かったが、流石に我の一任では決めかねる。我からグラマスへ報告し、各国へ通達する故時間を貰いたい。」
「まぁそうだよね。因みにどれ位の期間が必要かな?」
まぁギルマスとは言え彼女1人で人族領の意見を決める訳にはいかないだろう
僕がそう尋ねるとすこし考え「2ヶ月は長いか?」と聞いて来た
「いや、2ヶ月でも良いよ。但し・・・その2ヶ月の間で人族が攻め込んできた場合は反故したとみなすよ?」
僕がそう言うと渋い表情を浮かべるが、流石にこれは譲れない
まだ人族領に通達しきれていないという大義名分で皆が傷つく可能性の芽は潰さないといけない
「そうじゃな・・・ただ今現在は魔族領に攻め込んでいる輩は【勇者】を含めていない筈じゃ。取り急ぎ通達すれば問題無いじゃろう。」
「分かった。2か月後に元帝国領砦の国境付近で誰かしら待機させる様にするよ。」
そう言って了承を得た後に立ち上がる
このまま魔族領へ戻ろうと背を向けるとルナエラが僕を呼び止める
「ちょ、ちょっと待て!!もう戻るのか?」
「ん?そのつもりだよ。ルナエラにとっても魔族の魔力は毒でしょ?」
「戯けっ!!死んでいると思っておった友がやって来たのじゃ!!出来る限りは対応するわい!!」
そう言って彼女は椅子に座れとジェスチャーで指示してくる
僕は苦笑しながら「キツかったら言ってね。」とだけ告げて椅子に座り直した
「クロノよ・・・。」
ルナエラは僕が座るや否や真面目な表情を浮かべる
「・・・何?」
「・・・父に会いたくないか?」
その言葉を聞いて(あぁ・・・。)と合点がいった
姉さんと戦っていた時に姉さんは父さんと肉薄していた、【勇者】よりも父さんの方が強いと言っていた
あれは過去の父さんを思い出しながら言っていたのではなく、ごく最近の事を言っていたのだ
「・・・居るの?」
僕がそう尋ねるとルナエラは頷く
「お前の父は今現在、このギルドで客分と言う立場で冒険者達の指導をお願いしておる。お前が逢う事を拒否するならアカノの事やお前の事は我から伝えよう。」
真面目な表情でそう提案してくれる
その言葉を聞いて僕は暫し沈黙してしまう
僕は父さんの事も家族だと思っている・・・
愛情としては姉さんの方が強いが・・・恩人としては父さんの方が圧倒的に強い
でもだからこそ・・・会うべきかどうしても悩んでしまう
『姉さんは正気じゃなくなり行方不明です。貴方の息子は魔族に成り人族を滅亡させようと考えています。でも姉さんと父さんだけは魔族になって貰おうと思っています。』なんて・・・親不孝所の話ではない
「僕は・・・。」
・・・悩みに悩んだ後に僕は口を開いた
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