クロノの誓約と制約
互いに対峙しているだけで肌が粟立つ
それが姉さんの強さを感じているからなのか、それとも今から殺し合わなければならない動揺なのかは僕にはわからない
「・・・・・・1つ聞きたい。」
不意にそんな僕に対して、姉さんは構えを解かずに殺気と殺意はそのまま口を開いた
「お前は…今まで殺したものの事は覚えているか?」
その問いに対して僕は若干動揺しながらも正直に答える
僕の予想が外れていなければ姉さんが聞きたい事の本質はそんな事ではない・・・
それを理解しているからこそ言葉のままの応答を告げた
「記憶にある者もおれば、記憶に無き者もおる。」
「我が臣下に命じた、有象無象などは、記憶に無いが、我がこの手で刃を下ろした者は、記憶にある。」
そう答えると彼女は奥歯を鳴らし、より殺気と殺意をとばししてくる
それをそうだろう・・・
僕を連れてこいと姉さんはマリトナに告げた
それに対してこの回答でははぐらかされていると考えるのは自然の事だ
その言葉を聞いて激昂したかの様に叫びながら吼えてくる
「黒髪、黒目の男の子だ!!貴様が纏っている、ローブよりも黒く、艶やかな黒を纏っていた!!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・姉さん
僕はこの場で不謹慎ながらも感動と感謝で心が打ち震えた
彼女の様子を見ると、僕を探す旅の果てに力を付けて魔族と戦い、【魔王】を圧倒した事は容易に想像出来る
その姿を見ると思わず・・・
(言いたい、言ってしまいたい、打ち明けてしまいたい・・・。)
そう考える僕を誰も責める事は出来ない
でも、今はまだ言えない
言ってしまうと、今まで積み重ねた事が全て崩れ去ってしまう
決断した事が、決断した形でなくなってしまう
僕は姉さん、アカノ=エンドロールを殺す・・・
けれども・・・彼女が無力な人族の女性になってくれるならば・・・殺す価値は無いと断じる事は出来る
都合の良い解釈かも知れないが、【剣聖】としてのアカノ=エンドロールさえ殺す事が出来れば・・・命まで奪う必要は無い・・・それは祈りにも近い形でそう願っている
そうこう考えながら姉さんと対峙していても、幸い僕は黒いローブで身を包み、認識阻害の仮面で顔を隠している為にバレた様な素振りもない
それはほんの少しホッとしながら・・・ほんの少し寂しかった・・・
「この世に、稀有な、黒髪黒目の者だろうとも、この世に、1人という事はない・・・故に、我が刃を下ろした者と、同一の者であるかは、分からぬ」
そんな僕の葛藤等知る由もない姉さんに僕は言葉をはぐらかす
だがその言葉を聞いて、憤怒するのも自然と言えば自然だ
予想通り、姉さんはコチラを睨みつけて「貴様っっっ!!!」と憤怒しだした
「誤解するなよ、女、憤怒の炎を、滾らせているのは、其の方だけでは、ないのだ。」
僕は知らぬ存ぜぬを決め込む
多分それは、これ以上姉さんと話す事で自分の決意が揺らぐ恐怖を隠す為だろうという事は自覚しながらも・・・その自覚すらも隠していく
その思考すらも隠す様に、僕はそう言って持っていた剣に魔力を込める
より効果的に倒せる様に
より効果的に壊せる様に
より効果的に滅する様に
そうする事で【剣聖】アカノ=エンドロールを殺せる様に・・・
それを見た姉は、より構えを強化し大振りの剣に紅蓮の炎を付与した
見ているだけでそれが地獄の業火と揶揄される程の質量を有していると理解できる
「最後にもう一つだけ聞く」
斬り結ぼうとする僕に対して、目線を切る事なく姉さんは再度口を開く
「貴様の目的はなんだ?」
短い質問ながらも明確な疑問に、正直僕は少なからず驚いた
僕は僕の目的を何度も喧伝し、人間に伝え、宣言をしつくしている
それをまさかこの場に立つ姉さんが知らぬ訳もなく・・・ましてや再度問われるとは思っていなかった
(僕の・・・目的・・・。)
少しだけ思考し、改めて思う
これは変わらない
これだけは変・え・ら・れ・な・い・
だからこそ・・・改めて告げなければいけない
「フッ…・・・変わらぬ、我が願いは、人間族の殲滅、善も悪も、有象も無象も、老いも若きも、男も女も顧みず、全ての人間族の殲滅なり」
僕がそう宣言すると・・・姉さんは少しだけ寂しそうな表情を浮かべ、「そうか。」とだけ呟いた・・・
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