クロノの切り札と切り口
サタニックの身体から急激に魔力が溢れ出す
まるで今まで栓していた蓋が外れたかの様な異常な高まり方をする
「貴様は・・・こう思ったのではないか?【強欲ナル手】は、ステータスを奪った後に・・・一定の時間を経過すれば・・・消えていく・・・と。」
(この魔力量は・・・【魔皇帝】ではきかないんじゃないか?)
「その考えは・・・暫し早計だ。殆どのステータスは・・・その通りだ、が・・・3名までは・・・保存出来るのだ、よ。」
抑える事が出来ない魔力の所為だろうか?魔力やステータスに反して、彼女の身体が少しずつひび割れていく
彼女の魔力やステータスに、彼女自身の身体が付いて行けていないんだろう事は明白だ
そして・・・彼女が保存しているのは・・・
「察しておろうが、我が保存しているステータスは・・・我が討ち破った【魔王】、よ・・・。残念ながら2人の【魔王】しか保存しておらぬ、がな。・・・貴様を殺せば・・・我は【魔神】とな、り・・・」
そう言ったかと思えば突然苦悶の表情を浮かべて吐血する
身体中が小さいながらも万遍なくひび割れており肉体が魔力やステータスに圧迫されており、限界が近いのは明白だった
「そろそろ・・・お喋りも、おし・・・まいだ。さらば、だ・・・ク、ロ・・・ノ・・・。」
そう言うと同時に上空から僕に光が降り注ぐ
光は僕を囲い込む結界の様になっており、とてもでは無いが破れる気がしない
サタニックは手に持っていた鎗をみるみる内に巨大化させる
「・・・・・・」
そしてこちらに視線を向けると若干相好を崩して・・・一気に投擲してきた
彼女の放った鎗の衝撃か、はたまた彼女自身の魔力の所為か地面を抉りながら激しい轟音と共に鎗がこちらへ向かってきた
(素早さはそうでも無いけど・・・上空に跳んで避ける事が出来たとしても城を貫通して鎗が向かう先は地獄絵図だな。)
それに・・・正直、回避を試みようとする気は毛頭ない
あの鎗は文字通り彼女の命を賭けた投擲だ
これを避けて彼女が死んだとしても心から勝ったとも思えないし、何よりも自爆と判定され【魔神】になれなかったら最悪だ
僕は気を引き締めて、より魔力を練り上げる
魔法でも生物でも何でも喰う事が出来る【暴喰ノ口】だが・・・あれを喰う事は出来るだろうか?
僕の答えは・・・出来る、だ
余りにも強力な魔法とは言え、根源は魔法だ
他の魔法は喰えてあの魔法は喰えないという事は無いだろう
ただ問題は【暴喰ノ口】の大きさよりも今向かってきている鎗の方が圧倒的に巨大な事にある
まず触手一本で捕縛する事は確実に出来ない
捕縛せずに迎え撃ったとして、【暴喰ノ口】に触れた部分が喰えたとしても他の部分を喰う前にこちらに衝突するだろう
そうなって来ると対策は2つ
口そのものを巨大化させるか、触手で捕縛し喰わせるかだ
まず巨大化させる案だが・・・不可能だ
手段として巨大化させる方法が分からない
となると触手で捕縛し喰わせる案だが・・・これも不可能だ
極論、僕が【暴喰ノ口】の触手を完全に使いこなす事が出来、1体にすべての触手を向かわせる事が出来れば可能かもしれない
だが、少なくとも現段階では出来ないし、今この瞬間に突然できる様になる気もしない
(となると・・・今できる事を、より出力を上げてするしかないか・・・。)
正直やりたくない案ではある
今まで出来た事の延長戦とは言え、彼女と同様に僕も命を賭けなければならない
(でも・・・やるしかない、か。)
かなり博打的要素が強い上に勝率は4割・・・いや3割だ
(・・・逆に言えば3回に1回は生き残るって事だ!!)
そう自分の心を薄っぺらな叱咤激励で鼓舞し、僕はより魔力を放出させる
彼女と同様、正真正銘の最後の一撃となる
「サタニック・・・個人的には君の事を嫌ってはいないけど、勝たせてもらうよ。」
僕は彼女の目を見据えてそう告げる
聞えているかは分からないが、彼女の表情はどこか楽しそうだった
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