クロノの苦悩と不能
「クロノ様?!クロノ様?!!この扉をお開け下さい!!!」
「お兄さん!!お兄さんは大丈夫なの?!」
「旦那様!!ご無事ですか?!」
「・・・・・・」
帝国を文字通り壊滅させた僕はフラフラになりながらも城へ戻った
グーガの事、人族の事、ヴァリアの事、サイクスと呼ばれた男の事、そして・・・姉さんの事
記憶が戻った僕は今までの記憶を代わりに忘れる訳でも無く、ルーシャ達の事も覚えているし姉さんの事も覚えている
「・・・う、うぅぅぅ」
でも・・・だからこそ、辛い
姉さんを忘れていた自分の愚かさに腹が立つ
姉さんに恐怖の表情で相対した事を思い出すと心が斬り刻まれている様な痛みで胸が裂けそうになる
グーガや仲間を殺した人族は何度殺しても殺したりない気持ちになる
ヴァリア達が何かを企んでいるであろう事にも恐怖を抱くし、ルーシャの笑顔を思い出すと心が締め付けられる気持ちになる
そんな事を考えていると自然に涙が頬を伝う
「クロノ様?!ご無事なのですか?!」
「お兄さん、何が有ったのさ?!僕に言ってよ!!」
「旦那様!一人で抱えても良い事は有りません!!この扉をお開け下さい!!」
そんな心情を彼女たちは知らず、扉を叩いて僕に呼びかける
心配して貰っている有難さと申し訳なさ、それと罪悪感で呼びかけが聞こえていながらも・・・身体が動かない
口を開こうとしても上手く言葉に出来ない・・・
(僕は・・・本当に駄目な奴なんだな・・・)
ローエルやヴァリア、ライザに無能呼ばわりされていたのも当然だ・・・
だって僕は無能だ・・・
心配してくれる大切な人に言葉をかける事も出来ず、大切な仲間を失い、大切な家族すらも忘れていた・・・にも拘らず、僕はもう・・・動けない・・・
人族を滅亡させると宣言した言葉に偽りはないつもりだった・・・
だがそうする事で姉さんや父さんは・・・確実に住みにくい世界になるだろう・・・
人族に何も行わないとなると・・・互いが互いを警戒しているからこそギリギリのバランスで成り立っている世界だ。にも拘らずバランスを自ら崩した人族を放置すると魔族は人族に舐められてしまい、魔族にとって良い世界とは言い難い世界となるだろう
問題なのは・・・そんな状況であると理解しているにも拘らず動けないでいる・・・僕だ
姉さんと父さんを取るのか、ルーシャ達を取るのか・・・極論かも知れないが僕からすればその他大勢によって天秤が傾く事はない
だからこそ片方を選べない僕は、哀しみと悲観と絶望と後悔を抱えて膝を抱えている僕は・・・
「間違いなく無能だよ・・・」
誰に言うでも無く虚空を見上げて呟いてしまう・・・
◇
◇
ルーシャ達の声が聞こえなくなってからどれ位経過しただろう・・・
何分・・・何時間・・・もしかすると何日か経過しているかもしれない・・・
だけど、それでも僕の心はまだ動かない
人族から姉さんと父さんだけを救い出し、魔族と一緒に暮らす
そんな考えも浮かばない訳では無いけれど・・・正直現実的ではない
姉さんが魔族に降って心安らかに生活できるとは思えないし、父さんは僕等の師匠となってからは厳格な性格となった
親子の情よりも誇りを胸に再度まで戦っていくだろう
それに・・・魔族の中もどうしたって差別的な部分は起こりうるし、それを完全に止める手段も無い
結局のところ、姉さんと父さん、ルーシャ達のどちらの天秤を掛けなければいけない
そんな今の僕が不甲斐なくて立ち止まり続けてしまう・・・
そんな事を考えていると扉から「トントン」とノックの音が聞こえる
(ルーシャ達かな・・・)
そうは思っても身体が動かない・・・
だけど、声を掛けてきたのは意外な人物だった
「・・・バルデインです。」
声の主はバルデインだった
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