【間章】辻褄が合わないという事は、辻褄を合わせようとしない事に帰結する
「・・・で?」
あぁ・・・私はこの御方の声が好き・・・
そして同時にこの御方の声が恐ろしくもある
「はい。【国家クロノス】の【魔王】ですが・・・以前私が【勇者】たちを嗾け殺した人族の男でした。」
私は震える声でそう答える
この御方の前では取り繕った言葉を囀った所で容易に看破される
そして看破された後には・・・想像したくない
「・・・で?」
この御方のたった一言にも満たない言葉でも私の心は歓喜の渦に巻き込まれる
何故ならその一言は他の誰でも無い、私に向けられた言葉なのだから・・・
「はい。その人族の男は間違いなく称号【無職】だったのですが・・・何故か【魔王】に坐しており・・・何故か、以前には比較にならない程の強さを誇っております。」
そう・・・あの無能、クロノは以前とは比較にならない程強くなっていた
魔力量、素早さ、攻撃力、雰囲気、威圧感・・・その全てが桁が違う
そりゃローエルレベルなら瞬殺してもおかしくない程に
私なら何とか勝てると思うけれど・・・何とかというレベルで、だ
「・・・で?」
この御方はまだ私が言葉を紡ぐ事を許して下さる・・・
それは未だ生きてていいと仰って頂いている事と同意義だ
「はい。恐らくですが・・・彼の【魔王】に何らかの手ほどきを行った存在がいるかと・・・そうで無ければあの強さは理解できません。」
「・・・・・・」
私がそう報告すると同時に顔を俯かせる
この御方は決して感情を私たちの前で表に出す事は無い
だからこそ・・・私は求める・・・
この御方が私たちの前で感情を表わせる程の面白いことを・・・
「・・・サイクスは?」
「はい、奴とは帝国を離れた後に別れました。何やら面白い事を思いついたと言っておりましたが・・・」
そう答えながら意識がサイクスに向かった事に対して嫉妬を覚える
(あの眼鏡、次に会う時には殴りつけよう・・・)
そんな事を考えながら、次に賜るお言葉を待つ
「そうか・・・」
そのお言葉と同時に椅子から立ち上がる
「あの・・・どちらへ?」
「・・・言う必要は無い。」
「も、申し訳御座いません!!!お許しください!!申し訳御座いません!!!」
その声色で私は拒絶された事を理解する
思わずバッタの様に遜り許容を懇願してしまう
だが私の気持ちを知らないからか、興味がないからか・・・私を無視しそのまま去って行こうとする
「申し訳御座いません!!本当に申し訳ございません!!!如何なる罰も受け入れます!!」
そんな御方の足元に近づき、再度謝罪の言葉を羅列し土下座する
「・・・ヴァリアで良いのか?」
「私など糞蟲でも役立たずでも無能でもお好きにお呼びください!!!」
やっと声を掛けて頂いた!!!
しかも私の仮初の名まで呼んで頂けた!!
私は赦された!!
そう思った私に言葉が続く
「お前は好きに動くと良い・・・」
「・・・え?」
私はこの御方に見捨てられた?!!
そう考えた瞬間に絶望の色が頭の中を一気に染め上げる
けれど・・・
「私を笑わせるのだろう・・・?好きに動き、私を笑わせると良い・・・」
続けて仰った言葉は正に天からの啓示、世界からの祝福、神からの福音そのものだった
私は見捨てられていない!!
寧ろ・・・私と言う存在を認めて頂いている!!
そう考えただけで多幸感で頭と心が張り裂けそうになった
「はい!!はい!!私は貴方様の為に全てを捧げて貴方様に面白いと思って頂ける様に動きます!!」
「・・・・・・」
そう答えた私に対して何も告げずに去って行かれた
「あぁ・・・幸せ・・・」
ただ1人その場に残った私は暫くの間動く事が出来ず、幸福感で頭が一杯になる
「あの御方に面白いと思って頂く為には・・・どうやって世界をぐちゃぐちゃにすれば良いかな・・・」
まるで呪詛を呟く様にその言葉ばかりを吐き続けた
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