アカノの無用な苦悩
既に人族領の何処かが攻め込まれている
そう聞いた瞬間、嫌な予感が急激に膨れ上がる
「アカのん・・・今魔族が言っていたのって・・・」
カラミトルも私と同じ気持ちなのか顔色が少し青白くなっている
「分からない・・・だけどこのまま潜入捜査をする訳にもいかないと思う。」
「待ってください。」
そう言ってその場所を離れようとする私をロザンワが止める
その表情は若干強張ってはいるものの、私やカラミトルと比べると冷静にも思える
「確かに人族領に侵攻が始まっていれば由々しき事態です。ただ・・・今の話を聞く限り【魔神】自身が動いている訳では無い・・・ならば今私たちが選択できる道は2つです。」
「2つ?」
「はい。1つは此処から離れて攻められている場所に向かい助太刀を行う。もう1つはこのまま魔族領の情報収集を行う事です。」
彼女のその言葉に私は驚きを隠せなかった
ここに留まるという事は見捨てるという行為になるのではないか?私の表情にそう表れていたのだろう
彼女は更に言葉を続ける
「落ち着いて聞いて下さい。このまま私たちが戻ればその時の被害は確かに軽減されるでしょう・・・けれど有益な情報を得る事が出来ず、結果的により甚大な被害を被る可能性もあります。そしてこのまま留まれば確かにこの時の被害は広がるかもしれませんが有益な情報を得る可能性は上がります。提示しておいて申し訳ないのですが・・・どちらが正しいとは言えません。ですが、これは戦争なのです。人族も魔族も被害が0になるという事は有り得ないのです。私たちが今行うべきことは結果的にどちらが人族の被害を軽減できるかを考えて動くべきなのです。」
「・・・・・・」
ロザンワに諭されて私もカラミトルも黙ってしまう
被害が0になる事は有り得ない
それは理屈では理解していたが、攻め込まれたと聞いて気が流行ってしまったのも事実だ
私自身の最優先事項はクロノだ
その事に変更は無い・・・無いのだが・・・
手が届く範囲でクロノ以外が窮地に陥っていても思わず身体が動いてしまいそうになる・・・
(クロノ以外は不要だと、そう自分を断じる事が出来れば良いのに・・・)
完全に割り切る事が出来ない自分を恨めしく感じてしまう
そう考えているとカラミトルが俯きながら口を開く
「私は・・・難しい事は分からないけど・・・誰かが死んじゃうかもしれないのを分かってて何もしないのは、嫌、だな・・・」
そう言った同時にこちらに顔を向けてくる
「それにさ!!私たちが急いで戻ってパパーっと蹴散らして、頑張って情報収集すればさ!!どっちも頑張ればさ!!!」
そう言った彼女の瞳には涙が零れ落ちそうになっている
彼女は多分・・・見捨てる|という行為が心底嫌なのだろう
彼女自身がそうである様に、多分・・・自分が見捨てる側にはなりたくないのだろう・・・
そこには打算も深謀も無く、ただ純粋な助けたいという気持ち・・・それが私の胸を打つ
「・・・ふぁ?!!」
気付けば私も、そしてロザンワも彼女の頭を撫でていた
「カラミトル殿・・・いえカラミトルごめんね。嫌な事を言ったわ。」
「あぁ、私も考えすぎていたわ。カラミトル、貴女が一緒に居てくれて良かった。」
「?え?え?え?」
1人混乱した様な表情をする彼女を挟み、私とロザンワは微笑みあう
「ではアカノ、早急に人族領に戻り魔族を蹴散らしましょう。」
「そうね。【勇者】の力を当てにしてるわ。」
「あら?【剣神】には及ばないかもしれないわよ?」
そんな軽口を叩き合い、1人理解できないカラミトルを連れて私たちはその場を離れた
私の心中にはクロノに申し訳なさも当然にあるが・・・
ここで人族を見捨てる私がクロノに胸を張って逢う事は出来ない
それに魔族を捕縛すれば、クロノの手掛かりを掴めるかもしれない
そんな事を考えながら人族領へ入っていった
本章は此処で閉幕です
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