アカノの説得と折衝
「・・・そうか。」
私のこれまでの旅を目を閉じ聞いていた父さんは聞き終わるとただ一言そう発し、また考え始める
「ではクロノを殺した元【勇者】は死んだのだな。」
「えぇ、間違いなく【魔王】の手によってだけど。」
そう言うとフゥーと深く息を吐く
「俺の手で殺したかったが・・・死んだものは仕方ないな・・・」
父さんは私にも優しかったが、クロノにも優しかった
息子を傷つけられた無念が残っているのだろう
「だがお前が【真祖】に聞いた事が本当ならば、確かにクロノは生きているだろう・・・先ずはそれで良しとしなければならんか・・・」
「だけどクロノが傷つけられていないとは限らないし、早く見つけたい気持ちは変わらない。ルナエラと話をしてから可能な形で魔族領に入るつもりよ。」
「まぁそれが妥当だな・・・下手に感情のまま動いても地理間も目的地も分からない状況では危険すぎる。」
そう言いながら膝をカタカタと動かす
言葉や表情と違い、父さんもやっぱり心配しているんだろうな・・・
その時にふと疑問に思う
「父さん・・・父さんはクロノをギルド依頼の途中で発見して連れて帰ってきたんだよね?」
父さんの眉がピクリと動く
「・・・そうだ。」
「そう言えば父さんからもクロノからも出逢った時の事を聞いた事ない・・・」
「・・・秘密だ。」
そう言いながらバツの悪そうな表情を浮かべる
昔の父さんは豪放磊落と言うか大雑把というか正直者というか、表情を隠す様な事はしなかった
だけどある時を境に感情を浮かべず、冷静に努めようとしていた
「父さん、何を動揺しているの?」
私がそう言うとまた眉をピクリと動かす
「なにも動揺などしておらん。」
「嘘、父さんが感情を出さない様にし出したのって、私が称号【剣聖】になった日からだよね。大方師匠として接するべきだとか考えてそうしたんでしょうけど・・・長年の付き合いだからね、動揺している位は流石に分かるよ。」
そう答えると眉をピクピクさせ、深く息を吐く
「それは言えん。」
「どうして?家族でしょう?」
「家族でも言うべき事と言うべきでない事があるだろう?クロノの事はその類だ。」
その言葉にムッとしてしまう
私はクロノを大切に想っている
それこそ父さんよりもクロノの事を大事に想っている自信がある
「私はクロノの事は何でも知りたいの。父さん・・・クロノには私に隠さなければならない何かがあるのね?」
そう言うと父さんは黙って頷く
「クロノ自身も思い出したくないであろう出来事だ・・・いくら娘の頼みとは言え、息子の事を軽々という事は出来ん。」
「分かった。」
そう言って私は立ち上がる
その言葉にホッとした表情を浮かべる父に対して続けざまに次の言葉を繋げる
「父さん、闘技場に行きましょ。そこで私が勝てば・・・クロノの事を教えて。まさか父さんが、いえ師匠が弟子から逃げる事なんてしないわよね?」
私がそう言った途端鋭い視線で私を睨みつける
「闘技場に行くのは構わん。弟子の成長を知る事も師の喜びだからな。だが・・・クロノの事は話さんぞ?」
「えぇ、取り敢えずはそれで良いわ。だけど・・・私がクロノを守れると思ったのなら話して。」
そう言って微笑むと、父さんは二ッと笑う
強情な父さんを口だけで説得出来る程、私は器用で無いし頭も回らない
けれど私の強さを感じて貰えれば、分かって貰えれば・・・託すに値すると思って貰えるかもしれない
そう思って提案したが・・・父さんは多分、私の意図に気づいて乗ってくれたのだろう
私は帯剣した剣を握り、父さんは脇に置いていた剣を握りしめ、2人で談話室を出た
(村を出る直前まで父さんにはまともに勝てなかったけど今だったら・・・)
そう思いながら意気揚々と闘技場に赴いたのだった
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