【間章】ゴーガンの賭博と秘匿
「やぁゴーガン、少しお邪魔するよ。」
嬢ちゃんに剣を納品して数日後、いつも通り店番をしていた俺の元にちょび髭がやって来た
「なんだちょび髭。ギルマスってのはそんなに暇なのか?」
そう言って悪態をつくが、あいつはいつもの事だと言う様に気にする素振りも無い
それが何となく俺をイラッとさせる
「いやぁ、意外とそうでもないんだよ?だけどね、これだけは腹を割って話そうかと思ってね。」
そう言いながらカウンター脇にある椅子に手を伸ばし、ドカッと座り込む
「なんだ?えらく大仰な言い方じゃねぇか?」
「そうだね・・・うん、そうだ。君の本音を知りたいという友人としての気持ちと、一応冒険者を預かるギルマスとしての判断の両方を兼ねているよ。」
・・・こいつがそこまで言うのならば、それが本音なのだろう
俺には心当たりが・・・あるな
だがまぁ、馬鹿正直に言ってやる事もない
「えらく剣吞な言い方じゃねぇか。」
「それは勿論そんな言い方にもなるさ。まずはそうだな・・・友人としての気持ちを吐き出そうか。」
そう言ってカウンターに肘をつきこちらに視線を投げ飛ばす
こいつがこの目をする時は本気って事だな
「ゴーガン、君が再び一線に戻って今までの失敗を試行錯誤して復活した事は本当に嬉しいと思っているよ。」
「まだまだ復活まではいかねぇ・・・飽くまで既知を駆使しただけだ。まぁ満足できる出来ではあったがな。」
「だろうね。剣に銘を付けるんだからそうだろう。だけど・・・君はまだこの国を恨んでいるね?」
ギランのその言葉を聞いてゆっくりと首を横に振る
俺は国を恨んじゃいねぇ・・・それは事実だ
「ちょび髭、見当外れだ。俺ぁ国を恨んじゃいねぇよ。」
「アカノ様に託した剣、あれは非常に素晴らしい物だ。私は君が完成品に銘を付けたと聞いて喜びに打ち震えたよ・・・銘を聞くまでは、ね。」
銘を聞いたのか
だったらここに来た理由にも合点がいくな・・・
そんな事を考えている間もちょび髭は言葉を続ける
「君の様に超一流な鍛冶師が銘を付ける時、その銘をエンチャントする事によって効果が促進され、より付与効果の威力が高まる。だからこそ、銘を付ける時には非常に敏感になるものだよ、他の意味にならないか、とね・・・」
「・・・・・・」
そうだ、ある程度名のある鍛冶師であれば表銘でエンチャントを促進する事が出来る。だが俺くらいの鍛冶師であれば表銘とは別に、裏銘も付与する事が出来る
それにより更に威力を上げたり、補助効果を高めたりすることが出来る
・・・逆にデバフ等も付与する事が出来る
一般的に言う魔剣や呪いはその類だ
ましてや今回は【宝珠】を使用している
恩恵は絶大だがその分デメリットも当然ある
「【せきえん】という銘だそうだね。成程、表銘は【赤炎】と銘打たれているだけあり、アカノ様の希望に非常に沿っているとも言える。けれど裏銘は・・・【責怨】若しくは【積怨】として施したのじゃないかい?」
「・・・・・・流石だな、ちょび髭。」
そう言って俺は深く息を吐く
まぁ遅かれ早かれこいつにはバレるとは思っていた
予想よりも早すぎるが・・・
「確かに俺は裏銘は【責怨】としてエンチャントを施した。」
「何故だ?!彼女はお前の恩人ともいえるだろう?!」
ちょび髭は俺に対してそう憤るが、俺はそれを手で制する
「恩人だからだよ。・・・さっきの質問の答えだがな。俺は国を恨んじゃいねぇが、このくそったれな世界そのものを恨んでる。嬢ちゃんの探し人に万一があれば、嬢ちゃんもそうだろうよ・・・」
「彼女の弟か・・・」
その言葉に俺は深く頷く
「剣聖とは言え、自分の身を顧みず、魔族と戦いながらも行きついた先には弟の・・・となりゃ、嬢ちゃんは間違いなく絶望する。世界を責め怨む。その時初めて裏銘の効力が発揮される。」
「・・・効力は?」
「嬢ちゃんの自我が無くなり、片っ端から攻め滅ぼす。それこそ嬢ちゃんが救われるか息絶えるまで、な・・・」
「お前・・・」
「誤解するなよ?俺も嬢ちゃんの幸せを願っちゃいるさ。けれどな・・・絶望に変わる希望なんざこの世界には無いんだよ。だったらせめてと思ってな。後言い訳になるかもしれねぇがな!!こちとら【宝珠】を使用してんだ!嬢ちゃんの希望を最大限に活かすためにゃ、なんらかしらのデメリットを付与しなきゃなんねぇんだよ!!」
俺がそう言うとちょび髭が深く息を吐きだす
「もしアカノ様があの剣により暴走を始めると・・・お前の罪は免れんぞ・・・」
それを聞いて思わずにやける
「この世界に未練なんざありゃしねぇ。今すぐにでも好きにすりゃいいさ。」
そう言うとちょび髭は首を横に振る
「魔剣や呪いの剣を作製しただけでは罪にはならない。そうでなければこの世界に【宝珠】を使用する国は1つも無い事になるからな。だが、それが暴走したとなれば、な・・・」
「まぁ好きにすりゃいいさ。」
そう言って手を振ると、また深い溜息を吐きながらこちらを睨む
「お前は本当に扱いにくい奴だよ・・・」
その皮肉がどうも心地よかった
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