アカノと秘密の密談
「ブングは・・・あいつを殺した俺がエンチャントする事を許すだろうか。」
「あぁ。逆にしない方が怒ると僕は思うがね。」
そう言うとゴーガンさんは天井を見上げる
その目は虚ろではあったものの何処かをしっかり見据えている様な気もした
「嬢ちゃん。オラぁまだ複属性エンチャントの出来に納得が言ってねぇ・・・単属性エンチャントでも良いか?」
不意にそう私に声を掛けてくる
私は突然話を振られた為に若干動揺してしまった
「あ、あぁ!私は火属性にしか適正が無い!単属性ならば望むところだ!!」
「そうか・・・」
ゴーガンさんはそう言って目をつぶる
「俺の剣が空にも轟く様な勇名を馳せてくれるか?」
「そうなる様に精いっぱい努力しよう。」
「俺の武器を手にして・・・死ぬ事だけは許さねぇ。死ぬ時は俺の剣を持たずに死ね。」
「・・・分かった。約束しよう。」
死ぬ時の状況を注文してきたが、彼からすればそれ程の事なんだろう
私はその約束を胸に刻む様に頷いた
「じゃあさっさとどんな剣が良いのか伝えやがれ!!俺の気が変わると造らねぇぞ!!」
そう言って紙を広げるので私は慌てて彼の前に向かっていく
ギランさんはそれを後ろから眺めて微笑んでいた
◇
◇
「お前が引き受けてくれて良かったよ。」
「俺が今から酒を飲めねぇってのに俺の酒を飲みやがって・・・」
そう言いながら安酒をチビチビ飲むギランを睨みつけけながら俺は言う
あれから嬢ちゃんとは打ち合わせを行った結果、3日後にはこの街を出て行くとの事だった
最早時間は無いが、こいつに文句の1つでも言わないと俺の気が済まず、首根っこを摑まえて部屋まで連れてきたのだ
「なぁに、お前はこれまで酒を飲み続けていたんだ。私だって偶にはこんな安酒でも飲みたくなるものさ。」
「安酒は余計だ!!文句があるなら王城に帰りやがれ!!」
俺がそう言うとこいつは首を横に振りながら心底嫌そうな顔をする
「皮肉かい?あんな所で飲む酒なんか何が入っているかもわからない。それに安酒が高級酒の様に感じる事もあればその逆も然りだよ。」
「分かってて言ってんだよ。」
そう言って鼻を鳴らす
「なぁギラン。あの時、お前が城を出る必要なんてなかったんだぜ?」
暫しの沈黙の後に徐にこう呟く
こいつは俺が王族御用達で城に出向いていた時は第3王太子だった
王族なのに人懐っこく偉そうなところも無く、こんな俺とも気が合った
それはこいつも同じ様に感じているのかもしれない
詳しくは知らないが、俺が国から責め立てられた時に憤り王族に対し絶縁を宣言し城を飛び出してきた
王族も直ぐに翻すと考えたのか、国を出ない事を条件に承認され、こいつは様々な人脈やコネ、優秀に業務をこなし十数年でギルドマスターにまで上り詰めた
「なぁに、元々私には王族なんて似合わなかったさ。正直あの城に居る過去よりも今の方がよっぽど居心地が良い。それにギルマスとなればこの国の王族とは対等だからね。」
そう言ってニヤリと笑う
確か、ギルドは独立した国とも言えるんだっけか・・・
「へっ、嫌みなやろうだ。」
俺がそう言うとまた沈黙が流れる
沈黙してても気を遣わない相手ってのは・・・良いもんだ
「・・・ブングも喜んでいるさ。」
「・・・・・・だと良いがな。」
脳裏に浮かぶのはどうしてもアイツの死に柄
俺の剣を最後まで信じて握りしめていたアイツの手が忘れられない
「ブングの最後の表情を覚えているか?」
「・・・表情?」
最後の死に柄は手の部分しか記憶がない
「覚えていない、か・・・アイツの表情は穏やかだったよ。最後まで信じる事を誇りに思っていた様な、穏やかな表情だったよ。」
ギランのその言葉に少し瞳が潤む
俺は罪悪感からかアイツの手の部分しか覚えていない
けどまぁ・・・穏やかに逝ったのなら・・・
「・・・一杯だけ、どうだ?」
おもむろに俺の前にグラスを置き酒を注ぐ
「・・・勝手に人のグラスを持ってきやがって。」
涙で潤んだ表情を見られたくなくて憎まれ口を叩くのがやっとだ
「ブングの鎮魂とゴーガンの復帰に」
そう言いながらグラスを上げてくる
俺はグラスを上げて言葉を続ける
「あとは剣聖様の願いの成就とちょび髭の健康を願って。」
「「乾杯。」」
そう言ってグラスを合わせて酒を飲んだ
・・・気の所為かもしれないが、その瞬間は息子が笑ってくれた気がした
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