アカノの本気と翻意
「それからあいつは絶望しました。そんな絶望したアイツに対して国はアイツを責め立て始めました・・・『複属性エンチャントのデメリットを顧みなかった名声欲に囚われた愚かな男』とね。」
ギラン氏は顔を俯かせたまま言葉を続ける
「そんなあいつに対して王族御用達は解消され、妻は離れ、友人は離れ、客は離れていきました。それからですよ、あいつが複属性エンチャント所かエンチャント武具を作製しなくなったのは・・・」
「で、ですが今、商店街には複属性エンチャントの商品が陳列されておりましたが・・・」
恐る恐るギラン氏に尋ねると彼は机をガァンと叩き出す
「私はそれが何よりも我慢できない!!あいつの複属性エンチャントにより武具の強度は確かに脆くなっていた!!だが人族や通常の魔物相手であれば戦える品質なのですよ!!魔族を相手にさえしなければ充分に戦える品質を確立させていただのです!!それまで人族が魔族に侵攻した記録など一切ない!!なのに力を得た王族や国民はその刃を真っ先に魔族へ向けたこと自体が間違いなのですよ!!そして自分たちは人族、魔物相手用として売り出し利益を得ている!!私はそれがどうしても許し難い!!」
ハァハァと肩で息をしながら怒りを隠さない
「・・・アカノ様は幾度か魔族と遭遇しているとお伺いしております。遭遇した際はくれぐれも複合エンチャントされた武具はご使用されませんよう。」
◇
◇
◇
私はギルドを後にした
外に出ると既に空は暗くなっておりそこらの酒場から喧騒の声が聞こえる
(込み入った事情を聞きすぎたな・・・)
私には今、クロノと出逢う事以上の目的は存在しない
けれどもそれ以外がどうでも良いと完全に割り切れる程、心は強くない
あんな話を聞いてしまうと少なからず心が沈んでしまうのも無理ないことかもしれない
でも・・・
あの主人からエンチャントされた武具を作製して貰う事さえできれば、確実に私は強くなる
これは確信に近い目論見だ
であればあの主人を奮起させる事が出来れば私が死ぬ事なくクロノに出逢う可能性が高くなる
私は宿屋に戻る道中、どの様にすれば彼が奮起するのか頭を悩ませるのだった
◇
◇
次の日、私は再度あの『ゴーガン鍛冶屋』へ向かった。
一晩中考えて見たが残念ながら子供を亡くし、国を挙げて批判された男を奮起させる名案を私が浮かぶ訳もない・・・
私が出来るのは愚直なまでにお願いし、私の剣を打ってもらう事だけだった
「らっしゃい。・・・また来たのか。」
昨日と同じくチラッとこちらを見ると視線を外してくる
私は商品の方へ向かわず、ゴーガン氏の元へ真っすぐ歩きだす
「私の剣を打って欲しい。」
ダンとカウンターに手を叩きつけてそう告げると、即座にこちらを睨みつける
「・・・また昨日の続きをするつもりか?」
「私は殺され掛けて行方不明になっている弟がいる。その弟を探す旅路で主人の剣がどうしても必要なのだ。」
私がそう言うとピクリと眉が動き出す
「・・・嬢ちゃん、お前さんは強いだろ?今持っている剣も中々の物だ。俺の剣じゃなくその剣を大事にしするか陳列された商品なら売ってやる。」
「確かに私は強い。この国では無いが2国の【名誉騎士】も押し付けられている【剣聖】だ。だが・・・この剣や陳列された商品では今後も無事である保証はない。」
私がそう言うと若干馬鹿にした表情を浮かべる
「【剣聖】様にしては酔狂な事だ。エンチャントされた武具ならば周りの商店に幾らでも御座いますぜ?人族だろうが魔物だろうが使えない事ぁねぇですぜ?」
私は首を横に振りながら彼の言葉を否定する
「私の相手は人族魔物もいるが・・・魔族も相手だ。」
私がそう言うと同時にゴーガン氏はガンと机を叩き上半身を乗り出し、こちらを睨みつけて殺気を放った口調で私の目を見てきた
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