ポンニチ怪談 その19 選別検査
愚かなトップとその取り巻きのせいで一度滅んだとある国家。新政府の新たな方針で行われた選別検査をうけるルリコだったが…
「はい、次の方、書類と身体測定および遺伝子検査結果をご提出ください」
ルリコは検査官の言葉に一瞬ビクっとした。
(大丈夫、き、きっと大丈夫)
「お、お願いします」
「だいぶ緊張なさってますね。この選別検査では皆そうですよ。まあ前政府が社会的弱者を法的に抹殺しかねない法律を作ろうとしたのを思い出させるからかもしれませんね」
ルリコは検査官の言葉を黙って聞いていた。
「新政府はそのようなことをしているわけではありません。そもそも前政府のような愚かな真似をするようなことがないように、この制度を作ったわけで…」
検査官は喋りながら、書類をパラパラとめくっていた。
「この検査では性別、人種などでの差別するものではなく、前政府の愚行のおかげで一度滅んだわが国が二度と過ちを犯さないためです。それはよくご存じでしょう」
検査官の目がこちらに向いた。ルリコは震えを隠しながら
「え、ええ承知しております」
と答えた。祈るような気持ちで座っていると
「ん?」
検査官の手がとまった。
「これは、ひょっとして…しばらくお待ちください」
検査官は目配せして席をたった。
机の向かい側に残されたルリコ。
(ど、どうしよう、まさか、バレた?)
バレたらおしまいだ、いっそ今すぐ逃げようか、
しかし
いつの間にか屈強な男たちがルリコの両側の席に座っていた。
(ああ、もう駄目なの、いいえ、ま、まだ)
下を向いて膝の上の手をぎゅっと握りしめ、検査官がもどってくるのをまつ。
トントン
机をたたく音に顔を上げると、先ほどの検査官とは別の柔和な顔の中年男が前に座っていた。
「お待たせしましたね、ヨツウラ・ルリコさん。私は選別主任のオオニタです。これから貴女をふさわしい施設にお連れしましょう」
カチャンっと音がした。
いつのまにか椅子からシートベルトのようなものがでて、ルリコの体を椅子に固定したのだ。
ルリコの顔が絶望に染まった。
「ああ、そ、そんなわかってしまうなんて!整形までしたのに!」
「無駄ですよ。DNAでわかりますしね。あなたの親族から提出されたものを比較させていただきました。軽い矯正措置ですむならとお嬢さんは喜んで協力してくれましたよ」
「そ、そんな、まさか」
「前政府の御用学者としてしられた貴女の巻き添えをくって、市民権はく奪の上、一生幽閉となるより、数年矯正施設に入って普通の市民になるほうがずっとましでしょう。秘密裏に監視をつける場合もありますがね」
「せ、整形しても無駄だったの、ハズミさん、やっぱり嘘つきだわ」
「あんなお仲間を信じるとは、本当に救いがたいアホですねえ。ハズミ氏なんぞ、その愚かな言動で身元が、すぐばれたというのに。それに耳の形などは整形できませんからね。テレビなどのメディア露出度が高いおかげで前政府の支援者、御用学者、太鼓持ちは見分けやすいんですよ。やはり最低のバカ総理を支持しただけのことはあって愚か者ぞろいだ」
「な、なんですって、私は総理にも認められた学者で…」
「海外で評価された論文一つないのに?修士号は違う学科ではなかったでしたっけ?所属学会も国のマイナーなとこでしたよねえ。あの亡国の首相に贔屓にされなければ、ただの主婦でしょう貴女、いや主婦に失礼か」
怒りと恐怖がないまぜになったような表情のルリコは
「なんで、なんで、こんなことに!」
「はあ?本当にバカですね、救いがたい。バカなトップを貴女のような方が支えたおかげでこの国は一度滅びたんですよ!ウイルスの蔓延、それによる経済破綻、無意味な政策で税金を無駄遣いしたうえ、さらにお仲間の団体に税金をばらまく。その結果どうなりました?ほとんどの企業はつぶれ、人口も激減。産業もろくになくて他国に出稼ぎに行く有様。先進国と言われたこの国が、今じゃ隣国のお情けでなんとかやっているんですよ!」
優しげなオオニタの顔が一転鬼のような形相になった。恐ろしい顔に睨みつけられルリコは泣きだしそうになる。
「そ、そんなこといったって、私は」
「ただ、総理を支持しただけですか?無意味な利権誘導政策で我が国が滅びるのをわかってたんですか、わかってなかったんですか?どっちにしろ、愚かな方々だ」
軽蔑するように言い放つオオニタ。
「やはり、貴女にはそうとうな矯正、再教育が必要なようですな。それでもだめなら一生幽閉とならざるをえないか。まったくこんな差別的なことはしたくないが仕方がない」
「そ、そんな優生思想みたいなやり方は反対してたんでしょう、あんたたちリベラルは、ねえ、助けてよ」
泣きながら訴えるルリコに
「いわゆる障碍者や難病の方に対しての差別はね。しかし、人権を否定しあくまでも自分たちだけが優位と信じる者には当てはまらない。はっきり言えば貴女方こそが害なんですよ。遺伝的にその傾向があるのか、いまだ調査中ですがね。もしその偏った思想、差別主義的な思考傾向が遺伝に関係するものなら断種も検討すべきとの意見も出ているんです」
「ひ、ひどい」
「酷い?確かに。しかし貴女方は自己責任論をふりかざし、失業して自殺した人、貧困に陥った人、ウイルスに罹患した人にどういう態度をとったのです?彼らを助けようともしない政府を擁護し、彼らを非難した。自分たちは優れた人間だとでも思ったんですか?」
「ううう」
「今の貴女の境遇は今までしてきたことが跳ね返っただけですよ。これでも軽い方だ、貴女方のせいでどれだけの人が苦しんだか、少し知るといい」
オオニタが机の下のスィッチをいれると、机の表面に画像が映し出された。
薄汚れた作業着で疲れ切った顔で路上に横たわる男性。
やつれた顔でヨレヨレの制服でレジを打つ中年女性。
満床の病院のベッドで看護師を呼ぼうとする息もたえだえな患者と防護服とマスクで防御しながらも感染におびえる看護師。
「し、知らない、わ、私のせいじゃない」
『違うよ…お前のせいだ』
ルリコの言葉が聞こえたのように看護師が振り向いた。
「ひ、ひいい」
『あんたみたいなのが役にもたたないマスク配布を擁護するから…。税金もなくなって…医療に回せなくなって…』
恨めしそうな患者の目
「う、嘘よ、こんなの、つ、つくりもの」
レジ打ちの女性が不意に上を見上げ、ルリコを睨みつけた。
『アンタこそ似非学者のくせに、偉そうにテレビだのネットだので、いい加減な説を垂れ流したせいで店がつぶれたんだよ、このドアホ女が』
「た、ただの映像よ!」
『そうかい、俺が死んだのは本当だぜ、ほうら』
路上に倒れていた男の腕が不自然に伸びる。
「ひ、ひいい」
『どうせお前はバカ総理のお仲間として選別されるんだろう?なんなら俺が最終選別作業をしてやろうか』
机の上からニョキっと二本の腕がでてきてルリコの首に手をかけた。
「いやあああ、助けてええ」
「ほっといていいんですか、オオニタさん。あれじゃ矯正施設に連れてく前におかしくなっちゃいますよ」
画像の消えた机に向かって手を振り回して暴れるルリコの様子をみて、検査官の男がオオニタに耳打ちした。
「ほっときなさい。どうせ再教育しなおすんだから多少おかしくなってもかまいませんよ。だいたい、元々おかしいんですよ、バカなトップを擁護して自らの国を亡ぼすなんて。自分のエゴを満たすためとはいえ、愚かすぎる。こういう輩こそ国のために選別すべき、そう新政府で決まったんです。国民投票でも8割以上の賛成でした、よほどこういうバカを野放しにするのは懲りたらしい。もっとも彼らのせいで国が壊滅状態になったのだから当然ですね」
オオニタが軽蔑と憐みの混じった調子でいうと
「そうですね、障碍者や難病患者たちより彼らのほうがよほどいらない、っていうか害ですよ。積極的に国が駄目になるのにかかわったんですから。前政府の支援者、擁護者、全員施設送りにしてしかるべきです。役にたたないどころかマイナスなんですから、生かしておくのでさえ厭わしい」
「まあまあ、彼らにも役目はあるかもしれませんよ。たとえばあの総理のマスクのウイルス防御の効果とかね。あのマスクはもともと効果がないどころか、かえって感染をひろめるといわれていたんですが、実際実験はできませんでしたからね。彼女に実験に参加してもらうとかね」
「そりゃいいですよ、あの女、あのマスクはもらったらうれしいとかいってましたからね。ぜひ自分で試してみればいいですよ」
オオニタらの会話が耳に入っているのか、いないのか、ルリコは何かから逃れようと必死に手を振り回していた。
優生思想とやらが、またどこぞの国で復活しそうですが、なんですかね、何が基準で優劣きめるつもりなんでしょうかね。その国ではマイティフールなトップなせいで壊滅的打撃うけそうですが、そうしたらトップやお取り巻きが劣勢の排除すべきモノとされそうですね、今優生思想とかわめいているのは皮肉にも彼らの側のようですが。