3,放浪中!!!!!!
目の前が真っ暗だ。何も聞こえもしないし、スライムみたいなものに覆われて今横になっている。起き上がって立ってみようとするが上手く体を動かせない。だが、ここで体を動かすのを止めてはいけない。頑張ってジタバタしながら四つん這いになれるとあともう一息。この空間の重力と体の感覚を掴みながらハイハイをする。この3dマシンには重力操作機能と運動神経と感覚神経のジャックを行っている。実際には横になっているし体が動いてないのだが、ここで動いたりすることで皮膚や肉体や脳の神経の小さな信号を読み取ることで、脳が肉体を動かす信号を打ち消し肉体や皮膚が脳に送り出す信号をまねて脳に送り出すことができる。重力操作機能をすることで、真っ直ぐ立つと足に血が溜まり胃酸も下にいく。
20分位かけて駆け足が出来るようになって辺りも明るくなってきた。自分の足音も聞こえて地面との焦点も合う。そして真っ直ぐ前を見てみると人影が見える。おそらくゲームのガイドだろう。あそこから異世界転生をしてこの世界を滅ぼそうとする魔王を倒すため、経験値を積んだり世界の難解な謎を解き明かしたり、ご褒美に2次元の女性達とムフフをしたりするのが面白い、特にご褒美が。と、人影に向かって足をおぼつかせながらニヤニヤ進む。
「誰か…誰か助けてください!」
その人影が詰まらせながら叫んだ。よく見てみると、ピンクのツインテールの小柄の少女が涙目にしていた。ドストライクである。
「…どうしたんだ。な、何があったのかな…?」
恐る恐る声をかけてみる。急に助けを求める人がいたら誰だって動揺するだろう。思わずオジサンみたいな言葉が出てしまった。でもこれは人助けだから、何も悪いことはしていない。ちょっとだけ泣いている少女に声かけてるだけだから、まだ何もしてないし。と、拓也は自分に言い聞かせて、助けたご褒美に期待していた。煩悩の塊である。
「ひぇっ…人が…人が死んでて…」
あれれ、もしかすると俺はこの少女に引かれてるかもしれない。やっぱり口調が変態おじさんだったんだ、もう崖から飛び降りて死にたいと、拓也は思った。しかしここであることに気づく、この少女は序盤に出てくるガイドのような存在であることに。きっとこの少女は作られた存在で、このゲームの主人公を悪く思うような設定はない。まだ大丈夫だ俺。だから早く手の震えを止めろよ俺の体。
「人が死んでるの?」
「あ、そうなんです、こっちに来てください!」
そう言って少女は暗闇の中に光の方へと俺を急かすように歩き出した。ここで拓也は、この黒髪ショートヘア少女に軽蔑されなかったことに安堵し、この先の死体から始まるドラマに期待して、駆け足でその後を追った。
光の先は、西洋ホテルのスイートルームでスーツ姿の五十代の紳士が安らかにベッドで寝ていた。