1,逃避中!!!!!!
いつも営業してるお店はコンビニぐらいしかない。コンビニ店長は「お金=モテるor幸せの価値」と教わったのだろうか。「やった!年収1000万突破だぁ!」と社畜の人生を歩みたいのだろうか。おそらく結婚後も尻にしかれ「やった!過労死で生命保険だぁ!」と喜ぶのは結婚した妻だろう。何はともあれ、買い物ができたことは有り難いことだ。
たった今家出をした高校一年生の石川拓也は、コンビニで買い物をした後、今夜の寝るところを探して普段行かない道を徘徊していた。深夜の住宅街は薄暗く人の気配がない、そんな雰囲気が彼を何してもいいような気持ちにさせ、もっと深く暗い道の先の方へと進ませていった。
どのくらい時間がたったのだろう。拓也は今何時かを知りたかったが、残念なことにスマホやらは家に置いてきてしまった。なんだか辺りはさらに暗くなり、長い間歩いた疲労が足を重くする。ふと見ると蛍光灯が辺りを灯す屋根付きのバス停がある。拓也はそこにあるベンチでコンビニの卵サンドイッチを食べることにした。食パンに卵を挟んだだけの甘さ一点勝負の一品が絶妙に美味しい。129円に幸福を感じられるなら、やっぱり年収1000万は必要ないよ、店長。
食べながらこの先どうするかと辺りを見渡すと、建物どうしの隙間に見づらく置いてあるその看板がある。それはとても怪しげでカラフルに「魅唏の宿」と書かれていて、これはナニカを犯してしまう宿に見える。好奇心旺盛な彼はすぐにここに泊まることに決めた。
二人分通れるくらいの道を進むと古びた大きな三階建ての木造の宿があった。
「あれ、こんな遅くで大変だね、あんた一人だけかい?」
玄関を出てすぐにカウンターがあり、そこに70代くらいの爺さんがそこにいた。すぐ近くのテレビが付けっぱなしだった。
「あ、はい、泊まれますか?」
「うちは全然人が来ないからね、いい部屋にしておくよ。何しろ車が通れないからね、看板も無いようなものさね。」
この爺さん、学校の先生に一人はいる「ね」の多い人らしい。その先生の授業中に「ね」の数を数えたことはあるだろうか?俺はある。しているうちに眠くなる。
「一晩いくらですか?」
今日はここしか泊まる所が無さそうなので仕方がないが、宿泊代は抑えておかないとすぐに家に帰ることになる。それでは恥ずかしい。自分のプライドは、警察が捜索するまで許すなと言っていた。頑固なヤツである。
「うちはそんなにお金はいらないね、なにせ野菜とか自分で育てて食べてるからね。最近じゃあイモや何かと肉を煮て肉じゃがちゅうもんを作ってね、コレが作るのが大変で。お前さん、料理はしてるかい?うちの肉じゃがは結構なお味だよ?うちの宿に来たんだ。食べてきな。ね?」
答えになっていないが肉じゃがを勧めてきたあたり、いい人そうではある。拓也はありがたくご馳走になることにした。もちろん、拓也は食べ物に釣られていることに気がついていない。