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箱入り娘リターンズ×インフィニティ

タイトルイラスト:相内 充希さま


挿絵(By みてみん)


 五月十日。

 午後十五時。

 家に謎の箱が届いた。

 宅急便で。

 差出人は不明。

 一メートル四方くらいの、かなり大きな荷物が六畳一間の俺の部屋の真ん中にドンと居座っている。


 なんなんだろう、これは。


 ちゃんと俺宛の住所と氏名が書かれているあたり、届ける場所を間違えたわけではなさそうだ。

 とすると、誰かのいたずらだろうか?

 だとしたら手の込んだ嫌がらせだな。


「開けてみるか。いや、それは危険か?」


 もし爆弾でも入っていたら大変だ――と考えて俺は苦笑した。

 さすがにそれはないか。

 どうせ嫌がらせだとしても、カミソリが入ってるだとか昆虫やゲテモノの死骸が入ってるだとか、おそらくその程度のものだ。

 ニオイの充満する系のものだったらイヤだなと思いはしたが、考えていても埒が明かない。

 そもそも俺は人に恨まれることをした覚えはないし。そんなことをされる言われもない。

 しっかりとラッピングをされてリボンまでされている箱だ。

 おそらく海外で働いている父さんが差出人の欄を書き忘れて、可愛い息子に何か仕送りでもしてきてくれたのだろう。

 きっとそうに違いない。


「よし、開けてみよう」


 俺はそう決めて、ラッピングを取り外すと、これでもかってくらい無骨なプラスチック製の箱が現れた。贈り物用のお菓子でも詰まっていそうな上蓋付きの白い正方形で、中身は驚くほど軽い。

 いったい何が入っているのだろう?

 俺はドキドキしながら両手で上蓋をつかんで、上に引っ張ってみた。

 すると――。


「え?」


 するするっと蓋をあけてみると、箱の中からニョキニョキと生えてくるかのように――。

 黒い頭髪の、見覚えのある女の子の顔が出てきた。

 つーか、生えてきたのは顔だけじゃないぞ?

 顔から下の、胸とか腹まで、人間がまるまる一人――。


「おいおいおいおいおい……」


 まったく意味がわからないぞ。

 紺のブレザーとチェックのスカート――これってウチの学校の女子の制服じゃね? ――を身にまとった女生徒の姿が、箱の中から俺の目の前に現れたのだ。


「え? え? え? ここは?」


 と、女生徒本人もびっくり仰天の様子である。

 寺川(てらかわ)未夕(みゆう)

 それは俺の幼馴染であり、クラスメイトの女の子だった。


「み、未夕?」

「ちょ、ちょっと? え? ハル君!? ここはどこ?」


 未夕は、箱の蓋を頭に乗せたまま、俺の部屋をキョロキョロと眺める。

 コイツは俺の幼馴染だが、自分の意志でこの箱の中に入って、わざわざ宅急便で俺の家まで送られてきたのだろうか?

 まさか――。

 いや。百歩譲って仮にそうだとしても。この反応はおかしい。


「ここはどこって。俺のマンションの、俺の部屋だけど?」

「はぁっ!?」

「つーか、お前こそ、どうしてここにいるんだよ?」

「ちょっと待って。あたし、さっきまで学校帰りのドトールでミサとお喋りをしていて、それで……」


 そこまで言って、未夕は「はっ!」と目を見開き、急にモジモジとしだした。


「ね、ねえ。ちょっと――はどこにあるの?」

「え?」

「――レはどこにあるのって聞いてるの」

「ん? 何を言ってるか聞こえない。もうちょいハッキリと喋ってくれ」

「もう! トイレはどこにあるのって聞いてるのっ!」


 そして五分後。


「ふう」


 よほど切羽詰まっていたのだろう。

 未夕は俺の前の座布団に正座して一息ついている。その頬はほんのりと赤く染まっていた。


「少しは落ち着いたか?」

「な、なんでドトールのトイレに駆け込んだらハル君の部屋に繋がってるのよ」


 おいおい。なんだか突拍子もないことを言い出したぞコイツ。

 ドトールのトイレだと?


「ちょっと待て。お前の方こそ、なんで宅急便で届いた箱の中から飛び出てきたんだ?」

「むう」

「話が噛み合わないな」

「そうね。ちょっとおかしいよね。これは理屈にあわない」

「この箱が、ドトールのトイレに繋がっていたのか?」


 しばしの沈黙。

 考えれば考えるほどわけがわからない。


「集団催眠かな? それともお互いボケてるのかな? 実はあたし達ってずっとここにいて、さっきまで二人して夢でも見てたとか?」

「俺達がずっとここにいてって。何をしてたんだよ?」

「ば、ばかっ! そんなの知らないわよ。変なとこ掘り下げようとしないで」


 未夕は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにうつむく。


「ところでハル君はここで何をしてたの?」

「バカ。ここは俺の家だぞ。何をしてたって不思議じゃないだろ」

「ははーん。さてはエッチなことね?」

「するかっ!」


 いや、しないこともないけど――少なくとも今はしてなかったぞ!

 そんなとりとめのない話をしていたら、未夕は急に思い出したように腕時計に視線を落として、


「あ、そうだっ! あたしミサを待たせてるんだった!」


 と、跳ねるように立ち上がる。


「ちょっと不思議で面白かったけど……しょうがない。ハルくん。この件はまた今度(・・・・・・・・)ね!」

「また今度?」

「この面白そうな現象についてまた今度いろいろと話し合おうよ。あした達、せっかくの『オカ研』なんたから」

「え? え?」

「てことで、じゃあね!」


 そう言い残し、未夕は春風のように軽やかなステップを踏んで俺の部屋――というか俺の家から出ていった。つーか部屋の中でステップとか踏むなよほんとにもう――。

 それにしても。

 ドトールのトイレのドアを(くぐ)ったら一メートル四方の箱の中に繋がってて、しかもその箱は俺の家に宅配便で送られてきましたって、これはいったいどういう非常識な状況なんだよ?

 しかもこんな尋常ではない現象が起きてるっつーのに、うちの幼馴染の反応ときたら緊張感皆無。むしろ好奇心旺盛で目が輝いていたとか。

 さすがオカルト研究会の会長。良い趣味をしてらっしゃる。


「はあ。顔だけは可愛いんだけどな、あいつ」


 と。そのとき。

 再び外からインターホンの鳴る音が聞こえてきた。

 未夕が忘れ物でも取りに戻ってきたのかと思ったが、外から聞こえる声は彼女ではなく、気の良さそうなおっちゃんのものだった。


「ごめんくださーい! 宅急便でーす」


 ん?

 また宅急便?

 俺はもそもそと立ち上がり、そして再び荷物を受け取る。

 デジャヴを感じずにはいられない。

 一メートル四方の箱が、また俺の目の前に届けられたのである。

 ほとんどさっきと同じ形状で、もちろん差出人も不明。

 さっきと同じ柄のラッピングを外して箱を開けてみると、

 なんと――。

 これまたさっきと同じように――制服姿の未夕が中から現れた。


「……」

「よ、よう。またか?」


 しかし今度の(・・・)彼女の様子は先程のものとは少し違っていた。


「ここは――どこ!?」

「いや、どこって俺の家だよ。未夕」

「あ、ハルくん……えっと。ここはここは……」


 そう言いながら、彼女は俺を無視する形で部屋の中をきょろきょろと見回し、壁にかけられたとあるもの(・・・・・)を見つけて軽く舌打ちをした。


ここは違う(・・・・・)。またしくじった……」


 しくじったって?

 いったいなにを?

 そんなことを思っていたら、彼女はこちらを振り向いて、


「あ。ごめんね、ハル君。大丈夫?」

「えっと、いや。気にすんなよ」

「そう。ありがとう。じゃああたし急いでるから――」

「お、おう。ミサちゃんが待ってるんだよな?」

「ミサ?」


 未夕は訝しげな表情を浮かべる。

 あれ? 話が噛み合ってない?


「え。違うのか? お前、さっきまでドトールにいたって」

「あ……。ああ! うん。そういえばそうだったね! ミサを待たせてるんだった。そうそう。ドトールに行かなきゃ――」


 なんだか妙にわざとらしいリアクション。

 こいつ、本当にさっきまで(・・・・・・・・)ドトールにいたのか(・・・・・・・・・)

 そしてまた玄関から出ようとする未夕だったが、ふいに足を止めてこちらを振り向いた。


「ねえ、ハルくん」

「ん?」

「ごめんね。これが最後かもしれないから告白するけど」

「最後かもって?」


 どういうことだ?

 と思っていたら、未夕はぐっと何かを(こら)えるような顔をして、じんわりと瞳を潤ませながら、


「あたし、ハルくんのことが好きだった。嘘じゃないからね」


 はぁっ!?

 こいつはいきなり何を言ってるんだ?

 告白?

 俺のことが好きだった???


「ど、どうしちゃったの、お前?」

「……ごめんね、さよなら」


 それだけ言い残して未夕は家を出ていった。

 俺は「おい! 待てよ!」と言ってすぐさま彼女のあとを追ったが、玄関先まで出ると、その姿はもうどこにも見当たらず。


「なんなんだよアイツは……」


 奇妙なもやもやばかりが俺の胸の中に残された。




 これが『(やっ)()()ボックス(な箱)』にまつわる俺と未夕の最初の奇妙なエピソード。

 とても面倒くさくて危険きわまりない物語の幕開けだったのだ。


「甘くも辛くもなく思ったことを」的なことをオブラートに書いててくだされば……。

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