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第2回 かざやん☆かきだしコンテスト!  作者: 秋原かざや
■クラシック部門 ●ヒューマンドラマ
5/35

翼を下さい―怪人カマキリ男、鶯に恋をする―

タイトルイラスト:相内 充希さま


挿絵(By みてみん)


『お前は車に轢かれそうなカマキリを助けに飛び出しておもちゃ会社のトラックに轢かれた。我が眷族を助けてくれたこと、神の一柱として心より感謝しよう』


 果ても見えない真っ白い空間。

 俺の前には大きなカマキリ(雄)がいた。


「……え、なんで俺はカマキリなんかを……」

「本当にわからん神経だがカマキリの神としてそなたにはお礼がしたい」


 目の前には自称カマキリの神は、器用に鎌をひょいと掲げて薄緑色の光球を俺に埋め込んだ。


「お礼と言ってはなんだが、チート能力をあげよう、テンプレ的に。受け取ってくれるかね?」


 テンプレって言っちゃうんだ。神様が後ろから更に大きな雌のセクシーなカマキリに食われかけてるの、すごく気になるんですが。


「時間はもうあまりないようだ。さらばだ」

「神様!」

「これから君が立ち向かう運命に対しては、この程度では蟷螂の斧とも言えるのかもしれんが、ささやかな力に」


 カマキリの神(雄)が喰われ、その首が落ちるのと俺が白い光に包まれるのは同時だった。


 目が覚めた時、そこは知らない天井……じゃない!


 蛍光灯だ。ヒモに毛糸を繋いで寝たまま電気消せるようにしたやつ。

 たまにシャドーボクシングもする、よく見知った電気の紐。2DKの木造アパート築25年。コンビニは近いが駅まで遠い、少しセキュリティが甘いのが気になる我らが愛の巣。


 ここ、昨日寝たそのままじゃん。

 もしかして、異世界じゃなくて現代にそのまま生き返ったのか?

 いや、異世界に転生とは言ってなかったか。現代? え、異世界じゃないの?!


 驚いた拍子に肘のところからシャコンっと鎌が出てくる。千切れ飛ぶパジャマの袖。


 これか。チート能力って。こんな能力貰っちゃってどうすんだ。


 とりあえずテレビを付けてみる。

 朝の情報番組では、芸能人の不倫と政治家のヒーロー保護法への発言と、美味しいスイーツの紹介がまとめて流れてくる。

 いつも通りだ。


 若く美しいヒーローが、醜い怪人とする戦う際や、局地災害、不思議現象に立ち向かう際に周囲の建築物を破壊した場合にこれを災害保険の適用範囲内と定める法で(以下略)


 ああ、いつものニュースで完全に目が覚めた。

 さっきのはただの夢だ。それもとびっきりのタチの悪い悪夢だ。

 何がカマキリの神だよ。頭おかしいんじゃねぇのか。


 ゆっくりと伸びをすると体中がパキパキと音をたてる。

 変な姿で寝てしまったからだろうか。

 とりあえず、肘から飛び出した鎌をしまおうか。


『本日、中野駅前で暴れまわった怪人ですが、亀の甲羅だけでなくテッポウウオの性質を持っている事が判明しました。二種類以上の因子の埋め込みは推奨されておりません。非常に危険です』

『なんか陸上で苦しそうですねぇ、エラ呼吸とか何の役に立つと思ったんでしょうね』

『この怪人を討伐するシーンはCMの後で。どのヒーローチームが活躍したのか予想して番組ホームページから応募して下さい。予想か当たった方の中から抽選で』


 コメンテーターがまた勝手なことを言っているテレビの電源を切る。

 画面にチラリと映ったカメテッポウウオ怪人には見覚えがあった。

 親友の彼氏で、彼女の治療の為にお金が必要で高額な治験バイト先に手を出した馬鹿な男だ。


 別に好きで改造された訳じゃ無い。

 だが、ヒーロー保護法のおかげで、これからヒーローの横暴は今以上に酷くなるだろう。

 怪人だって、別に暴れたくて暴れてるんじゃない。生活する為には仕事が必要なのだから、仕方ないんだよ。


 まだ平成と呼ばれていた時代に、ヒトの免疫細胞を無効化する研究が行われており、病気の治療に大きな期待がされていた。

 内臓の移植で1番のネックになるのは、拒否反応だ。それをスルーできるなら、親族では無い人の内臓や骨髄も適合するし、ブタやサルの内臓だって使える。クローンの研究も大きく進むだろう。


 そして実際に拒否反応無効化技術が完成すると、充分な臨床実験がなされないままに、危険性が検討されるよりも効能だけが喧伝され、期待に押されて結果が積みあがってしまった。

 けれど、この技術が実用レベルで民間に普及した時に最も猛威を振るったのは「病の治療」ではなく「若返り」と「強化改造」だった。

 若返りはわかるだろう。年を取れば体中あちこちガタがくる。免疫の拒否反応がパスできるようになり、移植が容易になったことで金持ちは若さを買うようになったんだ。

 ぼやけない視力も、瑞々しい肌も、髪の毛も、丈夫な胃腸に肝臓も。

 身体のパーツさえ入れ替えれば、人は200年は生きるらしい。


 若い身体は高い値がついた。

 金の無い若者たちには魅力的過ぎる程に、高い値段だったんだ。


 長命種となったセレブが次に求めたのは「若い頃よりも更に優れた身体」だ。

 始めは美容から、次に運動面で。倫理観は踏みにじられ、オリンピックの陸上競技を120歳の億万長者が総舐めにした。


 こうして、健康も、そして筋力や丈夫さも金で買える物になった。


 だから、最近のバイトの求人には時折こういう物が混じる。

『急募! 動物園飼育係。猛獣の檻に入れる方』

『水族館清掃スタッフ募集。要:水中呼吸』

『事務作業。誰にでも出来る作業です。PCスキルは優しく教えます。多腕、多眼、睡眠不要優遇』


 自分自身の若い頃の細胞や、優れたアスリートの細胞からのクローンだけではなく、動物の能力の移植。もちろん気味悪がられたりもする。けれど、有効なんだ。

 イヌ並みに鼻のきく麻薬捜査官とか、イルカみたいにエコーロケーションできるライフセーバーとか、右の脳と左の脳で半分ずつ眠れる警備員とか。

 ハマれば便利なんだ。

 金持ちは若く美しい姿で、ファッションでモフモフにしたりする。でも、貧乏人は便利な代わりに鱗だらけとか腕の本数多い身体とかでキメラ化している。

 貧富の差は服装とかでは越えられない程、見てわかるモノになった。


 もちろん、改造の限界はある。人間は「自分が無意識に思い描く自分の姿」って物が思いのほか重要だったらしい。

 事故で腕を失った人は、無くなった腕が痛むことがあるそうだ。急激に自分の体を変えてしまうと、元の姿とのギャップに苦しむことになる。腕の本数をたくさん増やしたり、目を増やして360度の視界を得たり、売却用に内蔵の数を増やしたりした人の中には、自分を見失うという症状が現れた。


『自己認識喪失症候群』通称、自喪症。

 自分が何なのかわからなくなり、今いる居場所や環境への違和感が大きくなりパニックを起こしてしまう。テレビやネットでは『怪人化』と呼ばれて親しまれている。

 自喪症の治療方法はない。高いお金を出してオリジナルのボディをDNAから再現してノーマルに戻しても「自分じゃない」と思う気持ちは消えない。

 自分という認識が壊れてしまうのだ。記憶と妄想の区別がつかなくなり、無意識にできていたことができなくなり、食欲や性欲が異常な変化をしていく。土や葉っぱを食べたくなったりするのが初期症状だ、末期になると人が人に見えなくなる。

 当り前だよね、人の姿を捨てたのだから、中身が人でいられるはずがない。


 こうして、街なかでパニックを起こして暴れた怪人だが、安定剤を経口投与、もしくは血液中にぶち込めばしばらくはおとなしくなる。

 見目麗しいヒーローが気持ちの悪い怪人を叩きのめし、安定剤を打ち込んで救出する動画が何毎回も再生されて大人気となっている。

 見た目のキメラ度の高い人は、いつ暴れだすのか期待の目で見られているほどだ。


 それほど、もう、この社会は終わっている。

 まるで……檻の中のよう。それとも虫籠か。


 やり場のない怒りに、握りしめた前腕を机に叩きつけそうになった時、鍵を回す音がしてドアが開いた。


「ただいま。由雄君。ご飯もう食べた? サラダ買ってきたよ」


 キーの高い弾むような可愛らしい声。歌うとソプラノ音が出る声がさえずるような口調で名前を呼ぶ。

 深い苔色の髪の毛。そして骨の密度の虚弱化。そして記憶の空洞化。

 声優になりたくて鳥のような声を望んだ彼女は、引き換えに多くの物を失った。

 受けた改造の副作用は俺たちを人間じゃないモノに変えていく。


「オーディション一次選考通ったの話したっけ。」


「つばさちゃん」

「なぁに?」


 彼女は俺が由雄じゃないという事にすら気が付かない。

 それとも、俺が元の姿を失っているから区別がつかないのだろうか。由雄のように。


辛口希望

できれば、ここをもっと細かくとか、ここは不要とか、自分ならどう書くかかなど指摘頂けると糧になります。

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