Modern Weapon Girls‐戦場を駆ける兵器少女たち‐
タイトルイラスト:相内 充希さま
その青年が意識を取り戻すと、全裸で正体不明の謎に満ちた空間を漂っていた。
「ここは、どこだ……?」
ほとんど無意識に視線だけを上下左右に動かして周囲の様子を探り、思った事をストレートに声に出して呟いてみるが、当然のように返事は無い。それどころか、自分の五感さえも曖昧で、本当に声になっているのかどうかさえ分からなかった。
さらに、身体を動かしてみても空気の流れや重力を感じない所為で実感が伴わず、自分の姿勢さえ満足に把握できないでいた。おまけに、周囲の景色は無数の色が混じり合った状態でぐにゃぐにゃと不規則に歪みながら動き、相対的な位置関係を判別するのも不可能である。
「とりあえず、なにかヒントになるもので……、うおっ!?」
そう考えて次の行動に移ろうとした時だった。いきなり重力が復活でもしたのか、猛烈な勢いで落下し始めたのだ。まあ、最初から上下の区別なんて無かったので、これを落下と言っていいのかは不明だが、とにかく落下するような感覚を伴う現象に青年が襲われたのは確かだった。
「痛っ……!」
そして、投げ出されるような格好で身体の正面から硬いコンクリートの上に激突する。一応、両腕がクッションの役割を果たして顔面を強打する事態だけは避けられたが、それでも想像以上の激痛に襲われて2~3分は蹲ったまま悶絶していた。
その後、ようやく痛みも軽くなって余裕の生まれた彼がゆっくりと身体を起こし、周囲の様子を探るように顔を大きく動かして状況を確認する。
すると、そこはひび割れてところどころ崩れたコンクリートの壁に囲まれ、採光用と思われるガラスの無くなった小さな窓が1つに、扉の壊れた出入り口があるだけの薄暗い部屋の中だった。
当然のように家具や調度品の類は一切なく、薄汚れた空っぽの段ボール箱がいくつか床に散乱しているのと、横倒しになって扉の開いた空のロッカーが1つあるくらいだ。
ちなみに、いつの間にか服は着ていた。無地の白い半袖Tシャツに黒いジャージのズボンという寝る時のような最低限の代物だったが、それでも全裸よりはマシだろう。ついでに、かなり履き古した感じのするシンプルな白いスニーカーも履いている。
「うっ……、ゲホッ、ゲホッ!」
ただ、ここは長いあいだ使われていなかったのか、やたらと埃っぽくて無意識に息を大きく吸い込んだ際に激しく咳きこんでしまう。それでも、呼吸が落ち着いたところで改めて周囲を見回しながら状況を把握しようとした。
まず、ここがどこなのかを確かめようとする。当然だが、なにも分からなかった。なにせ、あまりにも情報が少なすぎるからだ。やむを得ず、次に自分の記憶を遡って手掛かりを得ようとしたのだが、そこで想像もしていなかった事態が起きて状況の把握どころではなくなった。
「がああああっ!」
理由は分からないが、なぜか自分の事を思い出そうとした途端、まるで頭が割れるような激痛に襲われてしまったのだ。そんな状態では痛みに耐えるのが精一杯で、記憶を辿るどころではない。
結果、彼は歯を食いしばりながら脂汗の滲んだ額を右手で押さえ、早鐘を打つように高まった心臓の鼓動と荒くなった呼吸が落ち着くまで床に座り込んでいた。
「くそっ、マジでどうなってるんだ……?」
あまりの異常事態に、思わず悪態に近い言葉を吐いてしまう。それでも彼は、手掛かりを求めて自分の事を思い出そうと記憶の再生を試みる。ただし、今度は慎重にゆっくりと記憶を掘り起こしていく。
「痛っ……!」
しかし、結果は先程と変わらなかった。ほとんど何も思い出せない内に頭痛が始まり、そこから先へと進めなくなってしまう。それは、まるで思い出す事を拒否しているようだった。
こうして彼は自分の名前さえ分からない状態、いわゆる記憶喪失と呼ばれる症状を抱えたまま行動する事を余儀なくされる。なお、あの謎に満ちた空間にいた時の記憶は完全に消失していた。
ゆえに彼が取れる選択肢は限られ、まだ完全には納得していないものの気合を入れて立ち上がると、壁に手をついて支えにしながら扉の方へ向かって慎重に歩き始めた。
そして、ゆっくりとした足取りで薄暗い通路を風の流れを頼りにして進み、角を曲がった所で通路の先に出入り口らしき箇所から差し込む外の光を目にする。その光景に僅かな希望を見出したのか、歩くペースが少しだけ速くなった。
「なっ……!?」
だが、通路を抜けて建物の外へと出た彼が目撃した光景は、そんな僅かな希望すら粉々に打ち砕くほど衝撃的なものだった。なぜなら、そこに広がっていたのは見渡す限り全半壊したビル群が連なり、生き物の気配さえも全く感じられない廃墟だったからだ。
あまりに予想外な状況に思わず茫然としたまま暫く立ち尽くしてしまったが、ようやく我に返ったところで背後を振り返る。当然、そこには周囲の建物と変わらない廃墟があり、今まで自分がいた場所も同じだった事を否が応でも自覚させられた。
その時、彼は目の前にある半壊したビルが受けた損傷の違和感に気付く。それは、自然災害によって生じたものとは明らかに異なる形状をしており、まるで爆撃か砲撃を受けたとしか思えない壊れ方をしていた事だ。しかも、どの建物も同じような損傷を受けて破壊されている。
「まさか……」
そう呟いて周囲の様子を改めて観察してみると、幹線道路上の至る所に点在する大小様々な焼け焦げた車の残骸に混じって戦車や戦闘機らしき物の残骸も幾つかあった。それらは、ここで激しい戦闘が行われていた事を意味している。
その事実を知ってしまった途端、彼は先程までとは種類の違う不安に襲われ、自分が酷く無防備な気がして落ち着かなくなった。だからなのか、些細な物音にも過敏に反応するようになり、少しでも安心できる場所がないかと顔ごと視線を動かして辺りを探り始めた。
すると、その瞬間を狙っていたかのように彼の背後で金属同士が擦れ合う嫌な音が鳴り響く。それは本当に突然の出来事だった為、心臓が止まりそうなほど驚いた彼はビクッと肩を跳ね上げさせて本能的に動きを止め、いかにも恐る恐るといった感じで音のした方へ振り向いた。
「ん……?」
しかし、視線の先には何も無かった。いや、より正確に表現するなら、一見しただけでは多数の車の残骸が点在する光景が変わらず広がっているように見えたのだ。だが、そこに動きがあった事で先程までとの違いに気付かされる。
ちょうど小型トラックぐらいの大きさで、窓もドアもない4輪の軽装甲車両が路上の残骸に接触しながら15km/h程の速度で進んでおり、それは明らかに彼の方へと接近していた。これで少なくとも軍の活動地域である事は分かったが、その軍を有する勢力が友好的かどうかまでは不明のままである。
事実、車体上部にある重機関銃を搭載したRWS(遠隔操作式銃座)が何かを探すように一定の速度で左右に動いているのが目に入り、ほんの僅かだが迷いも生じた。
「だが、他に方法はないか……」
それでも覚悟を決めたような表情で静かに呟くと、1度大きく息を吐いて気持ちを落ち着けた上で両手を高く掲げて左右に振り、自分に敵意がない事と存在を動きと声でアピールして救援を求めた。
「おーい、ここだ、ここ! 助けてくれ!」
もっとも、大声を張り上げたところで軽装甲車両の車内に声が届く可能性は低いのだが、車両は光学センサーか何かで人がいるのを認識したらしく、その場に停止する。
「とりあえず、気付いてはくれたが……」
こうして反応があった事に彼は最初こそ安堵したものの、停車後にRWSに搭載された重機関銃の銃口が自分の方に向けられようとしているのに気付き、最も否定したかった事態を想像してしまう。だが、それは無情にも現実のものとなった。
「くっ……!」
次の瞬間、この勢力が敵であると確定した。なにせ、武装すらしていない人間に対し、警告もなしに重機関銃を射撃したのだから。幸い、彼自身は咄嗟に左へとジャンプして車両の残骸の陰に飛び込み、まさに間一髪というタイミングで被弾するのを回避している。
そして、転がるように残骸の陰へと飛び込んだ彼の背後では、目標に命中しなかった銃弾がアスファルトの路面を抉りつつ地面にめり込み、周囲に細かな破片をまき散らしていた。しかし、これで危機が去った訳ではない。
最初の銃撃を回避されたのを光学センサーで認識すると、軽装甲車両は射撃を即座に止め、ゆっくりとした速度で移動を始めた。もちろん、その目的は標的である彼の姿を捉える為であり、いつでも射撃を行えるよう銃口は彼が隠れている可能性の高い場所へと向けられたままだ。
当然、人間が全力で走るよりも車両の移動速度の方が速いし、重機関銃の射程は2kmを超える上に少しぐらい厚みのある鉄板でも貫通する威力がある。つまり、彼が殺されるのは時間の問題だった。だが、実際には軽装甲車両の方が爆発して破壊された。
「目標を撃破しました。これより、対象に接触します」
衝撃的すぎる出来事の連続で地面に転がったまま茫然とする彼とは対照的に、爆発炎上する軽装甲車両から200mほど後方では、場違いとしか思えないくらいの可愛らしい少女の声がしている。
しかも、その声の主は幻覚や3D映像とは違う実体を伴った美少女の姿をしており、装甲板や電子装備といった装備品を文字通り身にまとい、軽装甲車両を破壊するのに使ったと思われる火砲を構えていた。
『良いところ』と『悪いところ』をセットで




