表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

5 みんな大好きコマドリさん

「今日はなんて忙しいのかしら」

 コマドリさんはついひとりごちます。

 何故か今日は、みんながみんなコマドリさんに用事を頼んで来るのです。それも大した事のない事ばかり。

「あたしは宅配屋さんじゃないのにぃー!」

 つい文句が出ます。みんなが頼んで来る事は荷物運びが多かったのです。

 最後にアライグマに得意顔で命令された隣の森のリスさんへのプレゼントを運び終わったら一応仕事は終わりです。それでも、また誰かに何かを頼まれるのかもしれません。

「あたし何かしたかしら」

 考え込みながらもコマドリさんは森へ急ぎます。もうすぐ歌の時間だからです。

 今日は何の歌を歌おうかしら。アライグマへの仕返しにリスさんへのほのかな想いでもばらしてやろうか、などという酷い考えまで浮かびます。まあ、実際にそんなひどい事をするつもりはありませんが。

「あら?」

 逆さ虹の森の入り口に戻ったコマドリさんは奇妙な違和感を感じます。



♪さかさにじぃぃぃぃぃ〜♪



 あの声はアライグマでしょうか。それにしてもなんて声でしょう。音程が外れています。

 一言文句を言ってやろうと、コマドリさんは声のする方に急ぎます。

 その時、コマドリさんは小動物が立てる小さな音を拾いました。何故か急いでいるようです。一体何なのでしょう。

「……じゃん。おれはコマドリじゃねーんだよ!」

「それでも、もっとまともに歌えなかったの?」

「うるせえなあ、キツネババア!」

「あら私は『素晴らしいキツネ』じゃなかったの?」

「覚えてんじゃねえよ!」

 いつもの広場につくと、何故かキツネ夫人とアライグマが言い争っていました。そこには、いつもコマドリさんの歌を聞くメンバーが勢ぞろいしています。

 おまけに、コマドリさんに気づいたクマくんがぐいぐいとアライグマの手を引っ張ります。そこでみんなはコマドリさんが来たのに気づいたようです。いっせいに気まずい表情を浮かべました。

「あ、あたし、来ちゃダメだった?」

 さすがのコマドリさんも不安になってそう尋ねます。

「そ、そんな事ないよ!」

 何故かヘビくんがそこらへんをにょろにょろと這い回りながら答えます。そして『挙動不審すぎじゃよ』とヤギのお医者さんに突っ込まれているのです。

 コマドリさんにはわけが分かりません。

 そんな大さわぎの中、タヌキ氏が呆れたようにため息をつきます。

「仕方ないじゃないか。こうしてコマドリさんは来てしまっているのだし。いい加減にはじめよう」

 始めるって何を? と聞き返すよりはやく、みんなは何故か整列を始めました。



♬逆さ虹 逆さ虹 みんな大好き逆さ虹

逆さ虹 逆さ虹 わたしたちみんなの逆さ虹♬



 みんなの口から出て来たのは歌です。それも、コマドリさんがいつも歌っている『逆さ虹の歌』。

「え? え?」

 コマドリさんにはわけが分かりません。



♬逆さ虹 逆さ虹 みんな大好き逆さ虹♬

♪この森はみんなに守られているの♪


♬逆さ虹 逆さ虹 みんな大好き逆さ虹♬

♪外敵は誰も近づけないわ♪


♬逆さ虹 逆さ虹 みんな大好き逆さ虹♬

♪だってみんなこの森が大好きだから♪


♬逆さ虹 逆さ虹 みんな大好き逆さ虹

 逆さ虹 逆さ虹 わたしたちみんなの逆さ虹♬



 何故かみんな、楽しそうに逆さ虹の歌を歌っています。それもいつものコマドリさんの歌うのとはちょっと違う明るいリズムで。

 でも、コマドリさんが驚くのはまだはやかったのです。



♬今日の逆さ虹の歌は

 みんな大好きコマドリさん♬



「え? え? ええーーーーー!?」

 つい、コマドリさんは大声をあげました。

 みんなは、してやったり、と言うように笑います。



♬コマドリさん コマドリさん みんな大好きコマドリさん♬

♪コマドリさんはやさしい子♪


♬コマドリさん コマドリさん みんな大好きコマドリさん♬

♪どんな小さい事でも♪


♬コマドリさん コマドリさん みんな大好きコマドリさん♬

♪すべて素敵な歌にしてくれる♪

♬すべて素敵な歌にしてくれる♬


♪ある日キツネの暴走族が

 アライグマくんをいじめようとやって来たのさ

 それをみたコマドリちゃん

 つっついてさっさと追い出したんだよ♪


♬コマドリさん コマドリさん みんな大好きコマドリさん♬


♪コマドリさんは

 ぼくにニワトリさんの卵をくれる時

 足りないかもしれないと

 木の実もつけてくれるんだ♪


♬コマドリさん コマドリさん みんな大好きコマドリさん♬



「え、えーっとお前はいい奴だ おれがほめてやる」

 アライグマの言葉でみんなは一時停止しました。

「それ、セリフよね、アライグマくん」

 キツネ夫人の突っ込みにアライグマは恥ずかしさで真っ赤になりました。



♬コマドリさん コマドリさん みんな大好きコマドリさん♬


♪コマドリさんはやさしい子

 いつも皆の気持ちをやわらげてくれるの

 その素敵なお歌で♪


♬コマドリさん コマドリさん みんな大好きコマドリさん♬


♪私が留守の時

 いっつもひよこ達をみてくれるの

 大好きよ 私の親友 コマドリン♪


♬コマドリさん コマドリさん みんな大好きコマドリさん♬


♪体調悪い子を見かけると♪

♪悪い子を見かけると♪

♫すぐに飛んで知らせてくれる♫


♬コマドリさん コマドリさん みんな大好きコマドリさん♬


♪ある日

 ぼくがドングリ池にお願いごとをしようとした

 その時 君は言ったんだ

 あなたの願いはもう叶ってるの

 あなたはとても勇敢よ

 そしてまたおんぼろ橋の歌を歌ってくれた♪


♬コマドリさん コマドリさん みんな大好きコマドリさん

 コマドリさん コマドリさん ステキなステキなコマドリさん♬



 コマドリさんは唖然としました。

 こんな素晴らしいプレゼントがあるでしょうか。

「ありがとう、みんな」

 でも口からはそれしか出てきません。

「うん。またいっぱい歌ってね」

 みんなは口々にそう伝えます。

 コマドリさんは嬉しそうにうなずきました。


 そしてその日の午後はずっと森のみんなの歌う『逆さ虹の歌』がひびきわたっていました。


 それを逆さまの虹は幸せそうに見守っていたのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ