4 よそ者とアライグマ
いつものコマドリさんの歌の会場についた動物達はみんな首をかしげていました。
それもそのはず。コマドリさんの様子がいつもと違うのです。
「ね、ねえ、何で今日のコマドリさん、エレキギターなんて持ってるの?」
「さあ……。イメチェンかなぁ?」
みんなはひそひそと話し合います。
それを見ながらコマドリさんは楽しそうにふふっと笑います。
♪今日はこの森に入って来た侵入者のお話〜♪
曲調もいつもと違い激しいものです。
本当にコマドリさんはどうしたのだろう、とみんなはまた首をかしげました。
それに、侵入者の事など誰も知りません。
逆さまになった虹の七色の光がみんなを包み込んでくれている限り、この森に悪者などが来るはずがない。みんなはそう信じているのです。
「侵入者ってどういう事? コマドリン」
ニワトリさんが尋ねます。
コマドリさんはちらりとアライグマを見ました。
「それはアライグマくんが……」
「お、おれは侵入者じゃねえよ! ひでーよ、このブス鳥が!」
「なんですってぇーーーー!?」
つい悪口に反応してしまったコマドリさんが木の上から叫びます。ついでにアライグマに小さなピックが飛んできました。
アライグマはそれを見事にキャッチして、そして投げ返します。そのうち、アライグマvsコマドリさんのキャッチボールならぬキャッチピックが始まってしまいました。
「ま、まあまあ、アライグマくん、コマドリちゃんも落ち着いて」
クマくんが慌てて二匹、いや、一匹と一羽をなだめます。
「何だよ! 止めんなよ、クマ! このコマドリぜってぇ許さねえ! おれを侵入者扱いしやがって!」
「いや、コマドリちゃんは侵入者がアライグマくんだなんて一言も言ってないよ」
「おれはこいつが『アライグマくんが……』って言ったのをちゃんと聞いたんだぞ。空耳だって言うのか! この弱虫クマ!」
いつもなら、その厳しい口調にクマくんは怯えるはずです。でも、彼は静かににっこりと笑うだけ。動揺すらしていないのです。
「それはコマドリちゃんの歌を聞けば分かると思うよ、せっかちなアライグマくん」
そうして、どうぞ、と言うようにコマドリさんに前足でうながしました。
♪その日も〜
意地悪アライグマはクマくんをいじめる〜
クマくんはたじたじしてるのに
ひどいアライグマね♪
「てめぇ……」
アライグマは額に青筋を浮かべています。コマドリさんはギターをかき鳴らしながらふふん、と澄まし顔。クマくんは呆れたように苦笑しました。
♪逆さ虹の森は不思議な虹に守られているの
だから みんなは幸せに暮らせる
そのはずだったのに〜
西の森からやって来た
すごい勢いでやって来た キツネの暴走族
すぐにからみやすい獲物を見つけたの
彼らは他の動物を困らせるのが大好きなのだから
おいてめえ ずいぶんでかい図体してるな
彼が話しかけるのはびくびくクマくん
すぐにアライグマ飛び出した
すごい勢いで飛び出した 不良くん
クマくんを守るように立ちふさがったの
自分以外がクマくんに絡むのが許せないから
おいてめえ クマになんか用かよ
彼が話しかけるのはリーダーキツネ
だけどリーダーは鼻で笑う
お前みたいなチビに何が出来るんだ
おれたちは天下のキツネ
お前はただのチビじゃないか
キツネだからどうした
アライグマは聞き返す
キツネというのは悪い動物
外ではそう言われている
よくだまし、よくいじめ、よく相手を苦しめる
それがキツネなのさ♪
みんなはその歌を気まずそうに聞いていました。
だって、ここにも「キツネ」がいるのです。お人好しで気のいいキツネ夫人が。
こんなの酷い。そうみんなは思います。
そう。コマドリさんは真実を歌っているだけなのでしょう。そしてきっとそう言ったのは……。
しかし……。
「「おい! いい加減にしろよ! おれらの仲間には素晴らしいキツネがいるんだよ! キツネのイメージを下げるんじゃねえ!」」
同時に二つの大声が聞こえ、みんなは驚いて声の主達を交互に見ます。
それはアライグマと、そしてコマドリさんでした。
みんなに見られ、アライグマは真っ赤になり、コマドリさんは得意そうにアライグマを見ます。
「……お前、聞いてたのかよ」
アライグマが呆然として言います。
コマドリさんはくすっと笑い、歌を続けました。
♪だから 俺たちは暴れてるのさ
その言葉を遮ったアライグマ
その目は怒りでらんらんと
輝いていたのさ
あまりの剣幕にびっくりし
悪キツネは逃げ出したのさ
キツネの風上にも置けないな
最後にアライグマはつぶやくの♪
歌い終わって満足し、コマドリさんはふふんと澄まし顔をします。
「お、おれは……その……」
珍しくアライグマが照れています。みんなはやさしい目でアライグマを見ていました。