2 卵がほしいヘビくん
「リクエスト? あたしに?」
親友のニワトリさんの言葉にコマドリさんは目を丸くします。いつも、歌の題材は、コマドリさんに任せられている、いや、コマドリさんが勝手に選んで歌っているのです。
だからこそ、このニワトリさんのリクエストには面食らってしまいました。
「ヘビくんをこらしめたいの。これはイヌのおまわりさんから聞いたんだけどヘビくんったら……」
ニワトリさんのグチが始まってしまいました。コマドリさんは真剣に聞きます。最後まで聞いてコマドリさんは納得しました。それではこの親友が可哀想です。
「しょうがないわね。この人情の厚いコマドリちゃんが一肌脱いであげましょう!」
「人情って……あなた人じゃないじゃない」
「……むぅ! ヒンカラカラカラカラカラカラ!!!」
ニワトリさんの突っ込みに、コマドリさんは意味も込めず騒ぎ鳴きする事で言い返しました。
***
♪今日は卵がほしいヘビくんのお話よ〜♪
「げ!」
心当たりがありすぎるヘビくんはぎくりと身を縮こまらせます。そしてそうっと歌を聞く輪から逃げ出そうとします。
「コケー!」
そこに飛び出して来たのはニワトリさんです。彼女は逃がさないぞ、と言うようにヘビくんをにらみつけました。
♪逃げても無駄よ〜! ヘビく〜ん♪
そして後ろからはコマドリさんが楽しそうに追いつめてきます。
「やめてくれよー」
ヘビくんはその長い体をぺたーんと地面につけました。
「それはお前が悪いからな。コマドリさんに歌で叱ってもらえ。俺の仕事が減って助かる」
イヌのおまわりさんまでそんな事を言います。
「そんなぁー」
ヘビくんは情けない声をあげました。
♪ヘビくんは食いしん坊
いつもお腹をすかしている
彼の好物は木の実、そして卵なの
この森には木がいっぱい
木の実はいくらでも見つかるの
この森には鳥がいっぱい
卵もいくらでも見つかるの
でも卵というのは鳥さんの子ども
食べられる方は困っちゃう
ある日、ヘビくんが見つけたのは美味しそうな卵
その上にはニワトリさん
ニコニコしながら卵をあたためている
ぼくは卵が食べたいよ〜
それでヘビさんは考えた
ニワトリさんをおっぱらえば ああ、おっぱらえば
この卵はぼくのもの ずっとぼくのもの
ヘビくんはお手紙書いた
ニワトリさん ニワトリさん ドングリ池まで来て下さい
お願いごとをしたいのだけど、恥ずかしくって行けないの
やさしいニワトリさん
ドングリ池に急いだ
ヘビくんはそのすきに
卵の所に急いだ
し〜め し〜め
これで卵はぼくのもの
そして卵に体を伸ばした
わんわん 一体君は何をしてるの
その時かかった声は
ぎっくり ヘビくんは体を起こした
そこに見えたものは
イヌのおまわりさんなの♪
さすがのヘビくんもいたたまれないのか身をちぢこまらせています。
「ごめんなさい、ニワトリさん」
しょぼんとしながらヘビくんは言いました。
ニワトリさんはため息をつきます。
「いいわよ。もうしなければ」
「もうしないと約束するか?」
「します。ごめんなさい」
イヌのおまわりさんにも厳しく言われ、ヘビくんはますます悲しそうになっています。
これで今日の歌は終わりだとみんなは思いました。
「じゃあ、コマドリン、続きをお願い」
だからこそ、次のニワトリさんの言葉にみんなは目を見開きます。
「つ、続き?」
ヘビくんもわけがわからないというように、そわそわにょろにょろしています。
コマドリさんはふふっと笑いました。
♪ニワトリが産める卵は二つあるの
ひよこになるものと ひよこにならないもの
どうしてヘビくんは知らないのかしら
子供にならない卵ならあげられるのに
さあ どうするの ヘビく〜ん♪
その言葉にみんなは息を飲みました。
ニワトリさんの産む卵にそんな種類があったなんて、誰も知らなかったのです。
「それ……本当?」
目に希望の光をともしながらヘビくんがたずねます。
「ええ。本当よ。時々届けてあげるから、それで我慢して」
ニワトリさんのやさしい言葉にヘビくんの目はうるうるとしていました。
こんなにひどい事をしたのに、ニワトリさんはまだやさしくしてくれるのです。
「ありがとう、ニワトリさん。そしてごめんなさい。お礼にひよこさんのごはんを探してあげる」
ヘビくんのその言葉に、ニワトリさんはにっこりと笑いました。
「いや、お前、そのごはんをニワトリさんにあげる前に食っちゃうんじゃね?」
ぼそりとアライグマがつっこみました。その言葉で広場は笑い声に包まれます。
ヘビくんは恥ずかしそうにぽりぽりと地面で体をかきました。