#5 彼女は胃袋を掴まれました。
#5 彼女は胃袋を掴まれました。
「雄二さん。実は私・・・お腹、空いちゃって」
今思うと、朝から何も食べていなかった。
しかし、今から食べに行こうとしても、何処もいっぱいだ。
「な、なぁ、遥華は何が食べたいんだ?」
「えっと、雄二さんの手作りがいいです」
俺はしばらく黙っていた。と言うよりも黙るしか方法がなかった。
「あの〜、ダメ、ですか?」
つぶらな瞳でこっちを見てきた。
「うっ、わ、分かった。けど、簡単なのしか作らないからな」
「はい。楽しみにしてます!」
そうして、10分かけて家へ帰った。
「ただいまです」
「待て、遥華」
俺は玄関からリビングへ向かおうとした遥華を止めた。
「先、シャワー浴びてこい」
「雄二さん。私に何するつもりですか?」
「何もしないけど」
予想外の答えだったらしい。
「そのうちに飯作っとくからよ」
「分かりました」
案外素直に言う事聞いてくれた。
そんなこんなですぐにシャワーの音が聞こえてきた。
「ちょっと、期待してたのにな〜。残念」
「何か言ったか?」
「うんん。何も!」
今日は色んな事があったな〜。デートなんていつ以来だろ。
それに新しい主人。雄二さん。
この人なら、私を・・・・
遥華はものの数分で出てきた。
「おっ、丁度良かった。今出来た所だ。着替えて・・・っても服ないのか」
「えっ、大丈夫ですよ」
そう言って遥華はリビングにあるダンボールへ向かった。
そして、中から服を取り出し着替えていた。
「な、何してるんだよ!」
「何って、着替え・・・雄二さん。通報しますね」
「ちょ、ちょと待てよ。大体お前が」
「冗談ですよ! 雄二さんなら見てもいいです」
その言葉はあまりにも冗談には聞こえなかった。
仮にもそれが冗談じゃなくても、俺は見ないけど。
「そんな事言ってないで早く食べろ」
「はーい」
机に向かうとチャーハンが置いてあった。
「これ、チャーハンって言うですよね」
「そうだけど」
それから言葉を発さずに遥華はチャーハンを食べ始めた。
そしてあっという間に食べ終わってしまった。
「ゆ、雄二さん。・・・・・・おいじぃ、でず」
気づけば、遥華は泣いていた。
「ど、どうした!」
「いえ、あ、あの、私、胃袋を掴まれました」
「だ、だからって泣くほどじゃ」
俺が少し困った顔をしていると、
「それに、この料理はあの人に初めて作ってもらったものなんです」
「あの人?」
それを聞くと何故か、浮かない顔をしてしまった。
だが、遥華は
「私の、前の主人です」