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介護終了日記  作者: 花倉
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一生外せないバッグ

おばあちゃんは体調を崩す事が多くなっていった。

急に熱を上げたり、ご飯が食べれなくなったり。

その都度、夜遅くても病院に電話をした。

ありがたい事に何時でも先生は来てくれた。

点滴をして2~3日すると回復する。そんな事がしょっちゅうあった。


ある日から排尿の量が極端に少なくなった。そして、毎晩のように悪寒を伴う高熱が続いた。そして点滴をしても排尿の量は増えず、おばあちゃんはどんどん衰弱していった。


その日は大雨が降っている夜だった。

病院の近くの道路は水没して通行止めの放送がなんども鳴っていた。

わかっていたが、悪寒と高熱、うなされる様な声を上げるおばあちゃんが心配で病院に電話をした。

『ちょっと今は道が水没していて行けません。通行止めが解除になり次第すぐに行きますから!』

やはり、病院からそう言われた。

震災で、地盤が下がってしまった為に、雨が降るとすぐに通行止めになる道の側に病院があった。


どうしようもない状態を母と願うしかなかった。

日付が変わる頃に、ようやく先生が来た。

まばたきもせずにずっと横を見てぐったりしているおばあちゃんを見てすぐに先生が携帯で、電話をした。

しばらくして、救急車が来た。

私はおばあちゃんと一緒に救急車に乗り込んだ。

先生と母はそれぞれ車に乗り救急車について来た。

呼び掛けても、おばあちゃんはずっと横を見て返事をしてくれなかった。

『血圧が低すぎる!』

救急隊員が何度も血圧を計りながら、その言葉を口にした。

どういう意味なのか、どのくらいから低いというのか、知識の無い私には分からなかった。


病院に着くとすぐにCTに運ばれて行った。

脳からお腹まで全部のCTを撮った。

しばらくすると、先生に呼ばれ、母と診察室に入った。

『腎臓に石があります。それが尿道を防いでいるみたいですね。そして今尿毒症状が起こっている状態だと思います。今、泌尿器科の先生が居ないので、入院して朝、先生が来るのを待ちましょう!』

そんな説明をされた。

危険な状態なのかどうなのか、正直分からなかった。

病室に入った。そこは個室だった。

夜中だからかな?と思いながら、おじいちゃんを看取った時も個室だった事を思い出して、なんだか怖かった。

『何かあったら連絡しますから、一度帰って、少し休んで来て下さい。』

看護士さんにそう言われて、母とおばあちゃんに手を振り、入院準備の為にも病院を後にした。


もう外はすっかり明るかった。

そして大雨でいつもより水が多い川を見ながら帰った。

『疲れたね。帰ったらちょっとだけ休もう。』

そんな事を言いながら家に着いた。

朝、5時頃だった。

そして2時間位仮眠をしてまた病院に向かった。


エレベーターが開くと、おばあちゃんの声がした。何かの治療が良かったのか昨日は喋れなかったおばあちゃんが歌を歌っていた。

聞いた事の無いような、戦争の歌、軍歌のような歌を大きな声で歌っていた。

話かけても私達の事を見るわけでもなく、ずっと歌っていた。

そのうち、話を聞いた、おばあちゃんの妹も慌てて病室に来た。

『ねぇさんわかる?』

『そんな歌、よく覚えてたね!?』

『ねぇさん、私だよ!』

一生懸命話かけていたが、それに対して返事をする事はなかった。

一晩で、いや、数時間で人が変わったようだった。


『10時頃から先生のお話があります。』

そう言われて、私達はその時間を待った。


時間がきて、相談室に入り、先生のお話を聞いた。

『年齢的にも体力的にも手術は難しいので、カテーテルで人工的に尿道を作ります。今の尿道から石を取ることは難しいので………。今、もうろうとしている意識が術後、回復する可能性も高いですよ!明日にはその手術が出来ると思います!』

先生はたんたんと話をした。

その様子から難しい手術じゃ無い事がわかったので、私達は『よろしくお願いいたします!』と頭を下げた。


私達は夜まで待たずに病院を後にした。

昨日から今朝の疲れと寝不足で、母と私は帰ってすぐにご飯を食べて横になった。


手術の日は姉が休みだったので、母は仕事に行かせた。そして姉と二人で、病院に行った。

エレベーターが開いても静かだった。

前の日のような歌声や騒ぎは無く、疲れきった様にぐったりしていた。そして、顔が変わった位に全身が浮腫んでいた。

先生が来たので、とっさに聞いた。

『大丈夫ですか?』

『早い時間に手術しちゃいますから!』

先生にも昨日の落ち着きが無いように見えた。

そして間もなく、ベッド毎おばあちゃんは運ばれて行った。

休憩所でコーヒーを飲みながらも姉と不安でいっぱいだった。

母からも何度も電話が来た。みんなで祈るしかなかった。

病室に戻って、少しするとエレベーターが開いた。

おばあちゃんが戻って来た。

私達を見つけるとVサインをして少し笑った。

ホッとした瞬間だった。

『おかえり』

姉がそう言うと

『痛かったよ』

とおばあちゃんがいつもの口調で話をした。

私は急いで母に電話をかけに行った。

母は涙声で喜んでいた。


でもその日からおばあちゃんは一生外せないオシッコのバッグを持つ事になった。


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