#003「怪しい男」
@アパート
アイ「それじゃあ、ママは先にお仕事に出かけるわね。夕方、七時なっても戻らなかったら」
レン「先に晩御飯を済ませとくんだよね。冷蔵庫のタッパーに昨日作ったおかずがあるから、お皿に移してチンすればいいんでしょう?」
アイ「そうよ。それで、ご飯は」
レン「炊飯器に保温してあるから、一度、底からかき混ぜて、お茶碗によそう」
アイ「ちゃんと聞いてたようね。行ってきます」
レン「行ってらっしゃい」
*
@通学路
リン「明日から、嫌になっちゃうな。見学しようかな、体育」
レン「何で? 楽しいじゃん、プール」
リン「呑気ね。これだから男子は話にならないのよ。蓮くんは、サンタクロースが実在すると思ってるんじゃない?」
レン「もう五年生だよ。サンタクロースの正体がパパやママであることくらい、とっくに知ってるよ」
リン「それじゃあ、赤ちゃんは、どうやって生まれるか知ってる? 言っとくけど、キャベツ畑では収穫できないわよ?」
レン「違うよ。コウノトリが、バスケットに入れられたのを銜えて運んでくるんだよ」
リン「あきれた。新生児は三キロ近くあるのよ? そんな重たいもの運べるはず無いじゃない」
レン「でも、コウノトリって、鳥の中では大きいらしいよ?」
リン「図鑑で調べたことがあるけど、コウノトリの体重は四から六キロなのよ。自分の体重の半分から四分の三もある荷物を、嘴に挟んで飛べるかしら?」
レン「頑張ったら、何とかなるんじゃないかな」
リン「それなら、訊くけど。蓮くんは、あたしを背負った状態で、五十メートルを十秒以内に走り切れる?」
レン「凛ちゃんを背負って? 無理だよ。背負わなくたって、十秒で走り切れないのに」
リン「そうでしょう。頑張って何とかならないものだってあるのよ。あっ」
リン、立ち止まる。
レン「どうかしたの? あっ」
レン、立ち止まって見上げる。
通行人「やぁ、凛ちゃん。また会ったね」
レン「この人、知り合い?」
リン「全然。見ず知らずのおじさんよ」
通行人「全く知らない訳でも無かろう? それとも忘れちゃったかな? この前は道を教えてくれて助かったよ」
ケン「おぉい。凛ちゃんたち」
二人、後ろを振り向く。
リン「あ、電器屋の健さん」
通行人、二人が見てない隙に立ち去る。 ケン、二人の前にライトバンに乗って姿を現す。
レン「こんにちは、お兄さん」
ケン「やぁ、お二人さん。今、学校帰りかな?」
リン「そうよ」
レン「お兄さんは?」
ケン「自分は、エアコンの取り替え工事の帰り。急に暑くなってきただろう? 久々に動かそうとしたら故障したって家が、あちこちにあってさ。それは、そうと。さっきまで誰かと話してたようだったけど、知ってる人かい?」
二人、後ろに振り返る。
リン「あれ?」
レン「さっきのおじさんが居ない」
ケン、一旦降りてドアを開ける。
ケン「近くまで送ってあげるから、そのおじさんの話を聞かせてくれないかな?」




