#002「機械ヲタク」
@アパート
レン「暇だな。まだ来ないのかな」
♪インターホンの音
レン、受話器をとる。
レン「はい。どちらさまですか?」
ケン「深町電器です。電子レンジのお届けと設置に伺いました」
レン「待ってました。今、開けます」
レン、受話器を置き、玄関に駆け、チェーンを外してドアを開ける。
レン「こんにちは、お兄さん」
ケン「こんにちは、蓮くん。お母さんは揚げ物中かな?」
レン「ママは、まだお仕事中だよ。今日は夜まで帰ってこない日だから」
ケン「そっか。それじゃあ、一人で留守番してるんだ。偉いね」
レン「エッヘン」
レン、ケンの背後にある台車に注目。
レン「それが、新しい電子レンジ?」
ケン「そうだよ。台所は、どっちかな?」
レン「こっちだよ」
*
レン「ねぇ、お兄さん。あの福引きの機械は、どこで売ってるの?」
ケン「あれは自分の手作りだよ。仕組みとしては、当たりつきの自動販売機と同じだから、道具と材料さえ揃えば、誰でも作れるよ」
レン「緑のボタンがスタートで、赤のボタンがストップなのは、信号機を真似したの?」
ケン「特別、真似しようと思ったわけでは無いけど、視覚効果を考えたら、自然とあの色に落ち着いたって感じだね」
レン「シカクコウカ?」
ケン「緑や茶色を見るとホッと落ち着いたり、赤や黄色を見ると危ないと思ったりするだろう? そういう風に、色によって気持ちがどう動くかってことを、視覚効果っていうんだ」
レン「ヘェ。お兄さん、物知りだね」
ケン「自分は、蓮くんの三倍は歳を取ってるからね。これくらいは知ってて当然さ」
レン「でも、僕のパパは知らなかったと思うな。何を聞いても、ウルサイとしか言われなかったもの」
ケン、顔を曇らせる。
ケン「そっか。たしか、交通事故で亡くなられたんだったね」
レン「うん。トラックにはねられたんだって。あ、でもママが居るから平気だよ」
レン、電子レンジの扉の左淵に指を掛ける。
レン「あれ、開かないぞ?」
ケン「アハハ。この電子レンジは」
ケン、扉の上部を持って開ける。
ケン「こうやって、上から下に開く縦開きタイプなんだ」
レン「レンジ、オーブン、スチーム。色んなボタンがあるね」
ケン「多機能が売りだからね。普通の電子レンジとして使うときは、レンジ。焼き料理を作りたいなと思ったら、オーブン。蒸し料理にしたいなと思ったら、スチームを押すと出来るよ」
レン「便利だね」
ケン「他にも、もう一つ。ちょっと変わった特別な機能があるんだ」
レン「どんな機能なの? 何が出来るの?」
ケン「それは、実際に使ってみてからのお楽しみ。それじゃあ、自分はお店に戻るね。この封筒に説明書とか保証書とかを入れてあるから、お母さんが帰ってきたら渡してね」
レン「はぁい。バイバイ、お兄さん」
ケン「またね、蓮くん」




