キャラメルカルテ
キャラメルカルテ
悲しい気持ちを抱えたまま私は会社の廊下を早足で歩く。
25歳で念願だった会社に就職し、希望を持ってがむしゃらに働いていた新人時代から3年が経ち、私も自分の実力や限界というものが見えてきた。
先ほども上司に呼び出され、自分が提案した企画に駄目出しをくらっていたところだ。
おまけに長年交際していた恋人と先日別れたばかりで、そのショックからも全く立ち直れていない。最近上手くいかないことばかりだ。
自分の努力や頑張りに応えてくれない結果や自分の実力不足を改めて実感し涙が滲む。
この状態ではオフィスに戻れないと考えた私は、人通りのない場所へ足を運ぶと声をころして泣いた。
少し落ち着いてから自分の席に戻りドサリと腰を下ろす。まだ湿っぽい鼻をすすりながら机の上を見ると、見慣れないものが置いてあることに気が付いた。
"キャラメル…?"
同僚の友達の誰かがくれたのだろうか?
しかし周りを見回しても皆自分の仕事に夢中で、そのような素振りを見せる人物はいなかった。私はくれた人物を探すことを諦め、鞄にキャラメルを入れると自分の仕事へと戻った。
夜、ヘトヘトになって家に帰りつき、しばらくしてから私はキャラメルのことを思い出した。
鞄から取り出し私はそれを口の中へ放り込む。キャラメルの甘さは疲れた心と体を癒してくれる気がした。
包み紙を畳もうと目を向けた時、何か小さな文字が書かれていることに気が付いた。私はそれを目を凝らして読んでみる。
「貴方が誰よりも頑張っていることを、私は知っています。」
視界が揺れて文字がぼやける。
私の頑張りを見ていてくれた人がいた。
今まで溜め込んでいた思いが涙となって私の口へと流れてくる。キャラメルは涙とカラメルで甘じょっぱい味がした。
"あぁ。これが人生の味なのかな"
頭のどこかでぼんやりとそう思った。
今まで感じていた辛さはどこかへ吹き飛び、後には心地よい温かさとやる気が残った。
明日キャラメルを買いに行こう。私も1人でつまづいている誰かを支えてあげられるように。そう決意して、私はメッセージ入の包み紙を手帳のポケットへそっとしまった。 〈完〉
この作品は「森永 キャラメル小説コンテスト」のために書いた作品です。
人は周りの評価に影響されやすい生き物です。
自分ではすごく頑張っていても、それを認めてもらえず批判されてしまったら自分の実力不足をより強く実感してしまうこともあります。
そんな時に誰か1人でも自分の頑張りを認めてくれる人がいたら、また頑張ろうと思えるのではないでしょうか?
この小説では、あえてキャラメルの差出人を不明にしました。
多くの人達が主人公のように、自分が貰った優しさを誰かに繋げていくことができたとしたら、きっと素敵な世界ができあがるのではないかと想像しながら書きあげました。
最後まで読んでくださりありがとうございました!