エディとの再開
昨日歩いたばかりの道を辿り、目的の場所に向かう。到着したところで時計を確認すると午前十時の少し前で、予定通りついたことに安堵すると同時に待ち合わせ相手が来ているかどうかを探す。しばらくきょろきょろしていると、一人の男に声をかけられた。
「もしかして、シャルロットさんですか?」
見たことのない男だ。笑顔が胡散臭い。
「エディのお知り合いですか?」
質問には答えずにこりと笑顔で問いかける。
「ああ、よかった。エディに写真を見せてもらっただけだったので、うまく会えるか不安だったんですよ」
男はエディの仲間らしい。どうやら変装したオレを王女だと思い込んでくれたようだ。
「あの、エディは?」
「ちょっと行かなければいけないところが出来てしまったらしくて、ここで待たせるのは不安なので貴女を迎えに行ってくれないかと頼まれたんです。一緒についてきてもらえませんか?案内します」
「ええ、ありがとう。お願いするわ」
オレがそう答えると、男はあからさまにホッとした顔をした。笑顔や言葉を取り繕ってはいるが、どちらも無理やり作った不自然なもので普通の人間だったら絶対についていかないと思う。大体そんな一人で待たせるのが不安になるような場所で待ち合わせすること自体がおかしいのだ。金で雇われたか、脅されたか、どちらにせよ、元はその辺の一般人だろう。
昨晩王女はアレックス王子とブライアン王子が教えてくれたという抜け道を使って城を抜け出し、今も我が家でレオンと共に待機してもらっている。何かあればギルバートから連絡が入るはずなのでまだ気づかれていない様だが、さすがにそろそろ起きてこない王女を不審に思ってサラあたりが呼びに行くだろう。
「着いたよ。中でエディが待ってる」
そう言って扉を開けたのは、とある港の倉庫の一つだった。感動の再開の邪魔したくないからと言いながら扉の外に立ったままの男に、どこまでいい加減なんだと思いながらも促された通りに中に入った。
油断した。
想定内だったとはいえ、そのまま見張りもつけずにいなくなるとは。怪しまれないように使えそうなものは持っていないし、ここには見る限り何もない。交渉しようにも相手が近くにいなければどうしようもない。携帯も圏外だ。こんなに杜撰な計画なら、もっといろいろ隠し持ってくればよかったと後悔しても遅い。
王女がいなくなったと分かれば、事情を知っているものはエディに会いに行ったと思うだろう。そしてまずは昨日王女とまわった場所を探すはずだ。しかしこの場所は昨日訪れた場所とは離れている。誰かが偶然見つけてくれるのが先か、犯人がやってくるのが先か。どちらにせよ、時間はまだまだかかるだろう。
おとなしく彼の助けを待つか――そう思ったところで、自分の思考が以前とは全く変わってしまっていることに気づき驚いた。これまでの自分なら、人に頼るなんて考えもしなかっただろう。自分は守り、頼られる側の人間である。強くなければいけないし、守られることなどあり得ないと思っていたから。しかし今頭に浮かんだ彼は、こんな自分に好きだと、守りたいと言ってくれる。それを聞くたび、確かに嬉しいと感じるのだ。冗談だろう、といつも言ってきたが、そうではないことくらいとっくに気づいていた。ただ、何かが変わるような気がして、それが怖くて気づかないふりをしていただけだ。
そういえば、エドワードはなぜ王女と会わないのだろうか? 彼女はたった一日過ごしただけのエドワードのことをずっと信じている。立場的にも少しは問題があるかもしれないが、お似合いではないだろうか。それに比べて自分はどうだ? 王女よりずっと長く一緒にいるのに、自分を守るために彼の言葉を疑ってばかりいた。もし王女と再会したなら……。
「オレは、エドワードが……」
そんなことをぐるぐる考えていると、ふいに、外から鍵の開く音がした。ありえないという気持ちと、やっぱりという気持ちが混ざり合って今のオレは相当おかしな顔をしていることだろう。そこから現れたのは、やはり望み通りの彼だった。